栞がそんなに悩んでいたなんて、僕はこれっぽっちも気付いてあげられなかった。

自分のことばかりで…自分の大切な人の話を聞いてあげることはおろか、悩んでいることさえも気付けなかった。

そんな僕は愚かで未熟者だ。


彼女の存在があったから…僕の毎日は希望と安らぎに満ちていたのに…。

でも、そのことを僕は決して彼女が居なくなってから気付いた、というわけではなかった。

僕は気付いていた。

ただ、どうして近づいたらいいのかわからなかったのだ。

それは僕の彼女に対する第一印象が僕自身をそうさせた。

唄と同じで…僕には自信がなかった。

だから、僕はただ待っていた。

彼女の方から、その最後の一歩を踏み出してくれることを待っていたのだ。




「まだ…間に合うんじゃないですか?」


春樹が言った。


『うん…』


僕はそう答えた。


「それじゃ…”ハルヒト”は…」


続けて言った彼の言葉に、少し遅れて僕は言った。


『はい…今日で解散させて下さい。』


少しの沈黙の後、春樹は「ああ…」と溜息のようなもの一つこぼして夜空を見上げた。




「また一人…ライバルが増えたかな…」


独り言のようにボソッとこぼして、彼は僕に微笑んだ。