それを聞いた時、彼女の体が一瞬ビクッとした。


「じゃ…人時さんの一人路上は?」


少しの空白を置いて僕は答えた。


『今日が…最後なんだ』


栞はずっと俯いたままだった。


「どうして…」


そう言って、一度、彼女は次の言葉を躊躇った。


「どうして…もっと早く言ってくれなかったんですか…。」


その言葉は僕の胸に強い衝撃を与えた。

もちろん、隠していたわけではなかった。

今日が来るまでに何度かメールしようかとも考えた。

でも結局、言えないままこの日を迎え、今、この時まで彼女に言えずじまいだったのだ。

もしかしたら、そのユニットを組むということで彼女に嫌われるかも知れないというのが怖かったのかも知れない。

でも、そのことを今日までに話さなかったことで栞が嫌な思いをするとは思ってもみなかった。

彼女への思いは僕だけの片思いであり、当然付き合ってるわけではないのだから…。


「ごめんなさい、私…」


『いや…』


「今日はもう…帰りますね…。」


『…栞ちゃん?』


「また…土曜日に行きますから」


そう言って彼女は焦ったようにさっと立ち上がり、その狭い階段から駅ビルに入っていった。

僕はその場に立ち尽くしたまま、彼女の背中を見送っただけで声をかけることさえできなかった。

結局、彼女は俯いてから一度も顔を上げることがなかった。