僕の一人路上最後の日、栞は何も知らずに、いつも通りあの狭い階段に座って、じっと僕の唄を聴いてくれていた。

僕と目が合うと笑顔で返してくれて、曲が終わると小さな拍手をくれる。

僕はそんな彼女に一言も相談もせずに、「ユニット」を組むことを決めたことを少しずつ後悔し始めていた。

曲を唄えば唄うほど、その罪悪感が増してくる。

ついに堪え切れなくなった僕は、そこで唄うのを止めた。


ギターをケースに仕舞い、彼女の方に近づいて行く。

1歩、2歩、ゆっくりと近づいて行き、その距離があと1メートルくらいのところにきて、先に彼女が口を開いた。


「どうしたんですか?何か…ありました?」


『え?…』


僕はその場で立ち止まってしまい、それ以上彼女に近づくことができなかった。

栞は首をかしげて「どうしたの?」というような表情で僕を見ていた。

僕はそんな彼女の目を見ることが出来なかった。


『い、いや…』


同時に言葉も出てこなかった。

彼女に「ユニット」を組むことになった話をする準備はしていたはずだった。

僕なりにその言葉も用意していたはずなのに、この場面にきて頭の中が真っ白になっていた。


「なんか変ですよ?…悩みとかあったら話して下さいね。
あんまり頼りになるとは思えないですけど…」


彼女のその言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻してきた僕は、用意していた言葉などもうどうでもいいように思えた。

ありのままのことを隠さずに話せばいいのだ。

僕はその場に立ち尽くしたまま、彼女と目を合わせた。


『あのさ…』


「はい…」


栞はいつになく真剣な眼差しを僕に向けた。


『僕…ユニットしないか?って誘われたんだ』