「あのそれで…早速なんですけど」


彼はコーラフロートのアイスをスプーンで口に運びながら、ダウンのポケットから取り出した物を僕に手渡してきた。

受け取ると、それは一枚のCD―Rと折りたたまれたコピー箋が何枚も重ねられたものだった。

とりあえず意味がわからず「これは?」と僕が訊いた時、彼はスプーンを置いて、今度はストローを銜えていた。

グラスにストローを差し込み、一口飲んでから、彼は続けた。


「そのCD―Rには僕の音源が入ってるんですよ。それと歌詞とコード…とりあえずそこに入ってる曲からやっていきたいと思って」


『え?ここに入ってる曲って…』


「今、僕が一人で路上で唄ってる曲ですよ。それなりに完成度も高いし、お客さんもついてますから…。
まず、ここに入ってる曲を人時さんに覚えてもらいたいんですよ。
…そこからのギターのアレンジはお任せしますから。
それで、路上に出て一緒に活動していく…。
どうですか?」


『え…あ、まあ』


言葉が出なかった。

どうやら彼の中では、ここまでのシナリオはすでに出来上がっていたようだった。

これじゃまるで僕は、彼のサポートギターみたいじゃないか…頭ではそう思ったが、それを口に出すことは出来なかった。

僕は自分の歌唱力だけでなく、作曲にも自信があるわけではなかった。

それに、実際に彼は路上でたくさんのお客さんを集めている。

その事実は、彼の路上ミュージシャンとしての実力の裏付けになっているのだ。


「じゃ…あとはユニット名ですね。なんかいいのあります?」


彼はズズッズズッとグラスの底を鳴らし、コーラフロートを飲み干した。

そう訊かれたが、僕は何も考えてきていなかったし、思いつきもしなかった。


『春樹さんに任せますよ。僕は別に何でも…』


彼はグラスの底に溜まった凍りをストローで突きながら、しばらく考えている様子だった。