保健室に棲(す)む王子に、な憑(つ)かれて困ってます!

 うっすらと意識が戻った瞬間、視界に入った白い天井を見て、私は地団駄踏むように両拳でベッドを叩いた。

「あーあ、またやっちゃったよ」

 独特の匂いと静かな空気のおかげで、保健室にいることはすぐにわかった。と同時に、また貧血で恵美のセッティングをぶち壊したことに気づき、壮大なため息をついた。

 白石先輩がいなくなって一週間。ほとんど普段の生活に戻った私は、前よりも積極的に活動していた。なぜなら、あの貧血の中でも動けたことが自信になり、白石先輩のエールが支えになっていたからだった。

 ――でも

 意気揚々と挑んだ戦場で、私は以前と変わらず派手にやらかしていた。

「で、なにをやらかしたんだ?」

「それは、隣のクラスの男子と仲良くなろうと思って……、って、えぇぇ?」

 不意に聞こえてきた声につられて受け答えしかけたところで、私は身構えながらカーテンに目を向けた。

 ――まさか、そんな……

 息を飲んで見つめるカーテンに浮かび上がるシルエットは、既視感満載のあぐらをかいて座るシルエットだった。

「ちょっと、どういう――」

 予想外の展開に、ふるえる手でカーテンを開けてみる。シルエットの主は、見間違うはずのない白王子だった。

「よ、久しぶりだな」

「なんで? どうして白石先輩がここに?」

 相変わらず人を馬鹿にしたような含み笑いを浮かべている白石先輩に、私は混乱したまま詰め寄った。

「ちょっと落ち着け。そんなにがっつくと彼氏はできないぞ」

「あのですね、これが落ち着いていられるわけないですよ。ていうか、なんでまた戻ってきたんですか!」

「それなんだが、一つ重要なことを忘れていてな。成仏しかけたときにそれを思い出したら、またここに戻ってきたってわけだ」

 相変わらず頬をぽりぽりしながら、白石先輩は何事もないかのように戻ってきた理由を教えてくれた。

「大事なことってなんですか?」

「それは、真莉の彼氏を見つけることをサポートするってことだ」

「え?」

「ということで、これからもよろしくな。それと、俺の目にかなう奴となるとなかなかいないと思うが、しっかりやってやるから安心しろよ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 いきなりの白石先輩の言葉に、私は理解を放棄して叫ぶしかなかった。ただでさえ白石先輩がからむとろくなことがないのに、彼氏探しをサポートされるとなると、ただすむはずがなかった。

「そんな大声で喜ぶなよ」

「あのですね、これが喜んでいると思いますか?」

「ま、報酬はいらないから、気長にやろうな」

「あの、聞いてます?」

 無邪気な笑みを浮かべて話を進める白石先輩に、私は頭痛と混乱で肩を激しく落とした。

「それと、これだけは言っておく」

 小さく咳払いした白石先輩が、小悪魔顔負けの意味深な笑みを浮かべた。

「真莉に彼氏ができるまでは、真莉は俺のものだ。たっぷり可愛いがってやるから、覚悟しとけよ」

「え? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 突然の白石先輩の言葉に、もはや最後の理性を失って再び叫ぶしかなかった。

 ――ちょっと、幽霊にな憑《つ》かれる私ってどうなのよ!

 目の前には、あぐらをかいて妖しげに笑うイケメンカルテットの白王子。

 私の青春は、どうやら詰み以外に選択肢はないような気がしてきた。

 〜了〜