翌朝、登校中の恵美と合流した私は、さっそく昨日のことをまくし立てた。

「え? 誰に会ったって?」

「だーかーらー、イケメンカルテットの一人、白王子の白石先輩よ」

 不思議そうな表情を浮かべる恵美の顔が、私の再度の説明で曇っていく。私と違って身長も体つきも大人びている恵美は、おおらかな性格からみんなにお母さんと慕われている。その恵美が困った顔になるということは、よほどのことだった。

「ねえ真莉ちゃん、その話、本気で言ってる?」

「もちろんだけど。でも、確かにイケメンカルテットに会うのも奇跡だし、会話したってなると信じられないのも無理ないかな」

「ううん、違うの。私が言ってるのはそういうことじゃなくて、白石先輩に会うことは無理なはずだってことなの」

「どういう意味?」

「だって、白石先輩、先月亡くなってるよね?」

 私を哀れむような目で見ながら、恵美が静かに問いかけてきた。恵美は冗談を言える人だけど、この流れで言うほど性格は悪くなかった。

「その話、ほんと?」

「残念ながら本当かな。白石先輩はずっと難病と闘ってて、最後は無理してでも学校に来てたみたい。でも、学校に来ても保健室通いだったから、ちゃんと学校にいたのかは微妙だけどね」

「そうなんだ……」

 恵美の突然の話に頭が混乱しかけていた私は、ふと白石先輩の姿を思い浮かべてみた。

 ――確かに、青白いような顔してたかな

 頬杖をついて笑う白石先輩の性格の悪さに気をとられて気づかなかったけど、よくよく思い出してみたら、青白い顔だけでなく急に現れたのも変に思えた。

「でも、真莉ちゃん約束したんでしょ?」

「え?」

「放課後に会う話だよ。まさか幽霊と逢引するなんて、真莉ちゃんらしくていいんじゃない?」

「ちょっと、どういう意味なの? ていうか、ちょっと馬鹿にしてない?」

「ううん、馬鹿にはしてないよ。よりにもよってイケメンカルテットの一人にとり憑かれるなんて、なんか真莉ちゃんらしいなって思っただけ」

「ちょっと、やっぱ馬鹿にしてるじゃない。ていうか、とり憑くとか、リアルな言葉を朝から使わないでよ」

 あきらかに笑いをこらえている恵美に、私はいつも以上にきつくあたる。恵美の言うとおりだとしたら、私は幸か不幸か白石先輩の霊にとり憑かれたことになってしまう。

「頑張ってね、真莉ちゃん。相手はイケメンカルテットの中でもダントツに性格悪いっていわれてるから、なにかするときは慎重にってことだけ忘れないでね」

 恵美から少しもありがたくない忠告を受けながら、私は肩を激しく落としながら頭を抱えるしかなかった。