午前8時25分。


教室の後方から誰かが挨拶をしている声が聞こえた。


こんなに騒がしい教室でも、誰の声なのか


私にははっきりと分かる。




―津田和哉先生。このクラスの担任。


黒縁メガネに、蛍光色の黄緑色のシューズ。


少し猫背でかかとをすらせて歩く。


年齢は25歳、彼女なしの独身男性。


先生は教室にいるみんなに順番に


声をかけていき、挨拶をする。


そして...。


「おはようございます」


津田先生の声が頭のすぐ上から聞こえた。


顔を上げるとそこにはいつもの爽やかな笑顔の


津田先生がいた。


黒縁メガネの奥にあるのは優しい瞳。


「おはようございますっ」


挨拶を返した瞬間、たちまち先生と目が合った。


それは本当に一瞬で。


だけど、強く印象に残った。


別に怖いとかそんなのじゃなくて。


今この瞬間。


私って、先生からどんな風に写ってるんだろうとか。


つい、そんなことを考えてしまう。


(・・・ドキドキしてる。)


心臓の鼓動が速くなって大きくなっているのがわかる。


津田先生は私の席からゆっくり離れると、


他の生徒のところに挨拶をしに行った。


「よかったねっ、はるちゃん!」


一部始終を見ていた愛結美が笑顔でそう言った。


みんなからしたらほんの些細なこと。


でも私にとっては、津田先生と挨拶をしただけで


その日が特別に感じた。


何気ない日常が、キラキラしてて輝いていた。