瞬間。
 映像が、頭の中に流れ込んできた。

 
『ーー透明人間になりたいんだ』
『きみは松永佑が好きなの? それとも、ただの俺?』
『倒れながら仕事をした』
『……やっぱり透明人間になんてなれやしないんだ』
 
 
 人目を気にするように、黒いバケハを目深に被った佑。
 一緒に行ったショッピングモール、書いた短冊。
 
 学校で偶然会ったのも、同じお店でのバイトも。
 照れた顔。夏祭りと花火大会。思い詰めたような横顔。
 青空に映える、綺麗なひまわり畑。4人を見てした、羨ましそうな顔。
 
 突如として頭の中にたくさんの映像が流れ込んできた。なんで、どうして。わけもわからやいまま、身体中に鳥肌が駆け巡る。
 
 足に力が入らなかった。ガクガクと震えて、わたしはその場にへたり込む。

 ーー思い出した。全部、あったことすべて。
 
 ーーなんで?
 どうしてわたしは、あんなに大切なことを忘れていたの?
 
 忘れたくなかった。連絡先も写真も消して、せめて思い出だけはちゃんと残したいと思ったのに。
 透明人間のあなたの存在も、あなたとの思い出も。
 
 事務所に入所してすぐで、まだ声変わりもしてなくてあどけない笑顔と、お世辞にもうまいとは言えない歌とダンス。それでもなぜか目が離せなくなって、もう好きになったきっかけなんて覚えていなくて。
 
 毎日が楽しかった。露出が少なくても、出る雑誌は必ず買って、真衣といつも騒いでいて。デビューが決まったときは、2人で大泣きした。
 
 デビューコンが当たったときは、高校のトイレで叫びながら抱き合った。
 
 ……あの思い出を、わたしはどうして、忘れていたのだろう。
 
『あそこが、……あそこしか、俺の居場所はないんだと思う』
 
 たくさん辛い思いをしてきた。それでも佑は、自分で決めて、またこの場所に戻ってきてくれた。
 
「巴音、大丈夫?」
 
 真衣の言葉にうなずきながら、わたしは立ち上がる。もう佑はこっちを見ていなかった。当たり前だ。
 
 わたしは、もうただのファンの1人なのだから。
 それでも。

 それでも、佑のことを、思い出してよかった。
 ーー思い出せて、よかった。

 ……ねぇ、佑。
 いま、あなたは幸せ?