世界から、音と色が消えていく。
 グループ脱退。芸能界引退。その言葉が信じられなくて何度も読み返す。でも、何度読んだって内容は変わらない。綺麗に粒がそろった佑の字は揺るぎなく、その事実を伝えていた。

 あれだけ祈り、願い続けた。それでも願いは叶わなかった。

 あの松永佑が、思い出の中の人間になってしまう。やがて時間が経って傷も癒えてきたとき、そういえばMerakに松永佑がいたね、なんて思いたくもない。そう思われるのも嫌だし、なにより自分がそう思うときが来るかもしれないなんて、耐えられない。

 佑は、もういなくなる。
 この世界から、わたしたちの前からいなくなる。
 信じられない、そんなこと信じたくない。

 涙が止まらなかった。家にあるグッズや雑誌で佑のことを見るたびに、楽しそうに活動のことやメンバーのことを話しているのを見るたびに、乾きかけた涙はぶり返して溢れ出した。

 わたしの心には大きな穴が空いてしまった。その大きな穴は、何かをして埋められるものではないし、時間の経過で完全に治るものでもない。ただ松永佑がいれば簡単に埋まるのに、それはもう二度と叶わない。

 わたしはこの先、どうしたらいいの?
 佑がいない世界でどうやって生きていけばいい?

 こんなことになるなら、佑のことなんか好きにならなければよかった。思いたくないけれど、そんなことを思ってしまう。

 いつも普通にしているときはかっこいいのに、笑うと途端に可愛らしくなる表情に救われてきた。いろんなことを楽しそうに話すところも、胸キュンセリフが下手なところも。佑のすべてが好きだった。

 デビューが決まったときは嬉しくて泣いた。でも、今まで近くにいた彼らが突然知らない遠くへと行ってしまったような気がして、また泣いた。テレビも雑誌も、出ないときがないくらい急激に増えた露出に、戸惑っていたのだ。

 でもMerakのみんなは、そんなファンの感情を知っていたのか、ファンクラブの動画や配信で幾度となく『自分たちは遠くに行っていないよ』と笑ってくれた。たった一言、ただの軽く言われる言葉たちにたくさん救われてきた。

 これはすべて、やけにリアルなただの夢。目が覚めたら、いつも通り佑は笑っている。
 そう信じて、泣き腫らした目を閉じて布団に丸まる。
 
 目が覚めて、SNSにはいつも通り新しい仕事の告知と、それを楽しみにする声と、キスシーンあったら嫌だなとか、そんな声で溢れていてほしい。それを見て、ああ、あれはやっぱり悪い夢だったんだと笑えれば。