アルテミス。今日も随分派手にやってくれたみたいだな。

黒いスーツに身を包みまるで鏡の代わりになるかのような革靴を履いた背が高い一人の男が、この辺では有名な廃墟ビルの中で呆れた表情を浮かべながらその場にいるもう1人の男を見つめていた。
男の名前はアルテミス。この業界でのコードネームだ。彼の本当の名は誰も知らない。 アルテミスと呼ばれたその男は、自分を見つめる男のそばでたっていた。モデル体型の彼はただたっているだけでも十分な絵になる。アルテミスは昨日とは違いラフな格好をしていた。耳につけていたはずのピアスも今日はつけていない。

すみません。少しやりすぎました。

アルテミスは形だけの謝罪を口にする。
その返答を聞いた男は、ため息をつきながら
お前なー 頼むから大人しくしてくれよ。 昨日やるのは1人だけのはずだろう。なんで3人もやったんだ? おかけで俺が上からクレームを言われるんだぞ?
とやや脱力しながら言葉を紡いだ。
そしてそのままその場にある外国製のソファーに座りこんだ。
アルテミスはその様子を見て、感情を感じさせないような瞳で男を一瞥すると、自分もその場に座った。
そしてそのまま男に向かって、
殺すのはあいつ1人だけだったが、調べてみたらあとの2人ともそいつは関連していた。
そのうち組織が命令を下すだろうと思ったから一緒にいる時に片付けただけだ。その方が安全だろう? 別々にやるよりは。なあ、祇園さん。

アルテミスは悪びれを全く見せずにそう返答する。さもそれが普通であるかのように。
祇園と呼ばれたその男はアルテミスの上司と一応なっているが、実質はアルテミスの方が決定権を持っているのでどちらが上なのかはもはや分からない。祇園自体歳がふたつしか違わないアルテミスのことを可愛がっていたし、上司と部下のような状態を望んではいなかった。 だから今でもこうして名前で呼ばせている。
名前と言ってもコードネームだが。
組織にいる人間は全員自分の名前を持っていない。必要ないからだ。この世界で生きていくのにそんなものは邪魔にしかならない。
だからお互いを呼ぶ時はコードネームで呼ぶ必要がある。
祇園の場合はふたつコードネームを持っていて、表の時の名前と裏の時の名前。アルテミスだけには表での呼び名を許していた。またアルテミスのことを愛称のアルで呼ぶことに対してアルテミス自身も許しているというような関係である。
アルテミスの返事を聞いた祇園はやはりため息をつきながら
まあ、よくやったよ。派手にしてくれたけどね。祇園は皮肉を少し込めて言い返した。
それはどうも。とアルテミスは皮肉をものともせずに話した。
それを聞いた祇園は

本当によくやるよねー
うちの組織。FBI並だよね。ほんとに。狙ったターゲットは絶対に逃がさない。地球上のどこに隠れていても必ず見つけ出す。
組織を敵に回したらもう俺たち生きていけないよ。そう言って祇園はこの日初めての笑みを見せた。

そうですね。俺たちはその為だけに生きてるんですから。できないなら死んだ方がいい。組織の役に
たたないのなら必要ないので。

アルテミスはそう冷酷に返す。人の優しさなどを微塵も感じさせないその答え方はアカツキそのものだった。

そうだね。俺たちは組織のためだけに生きてるんだから。
俺たちの命は組織のものだ。
俺たちはそれを誇りに思ってるし、俺たちの信念だ。決して変えることはできない不変の心理。
でも、アルテミスたまにはしっかり休め。最近全然休んでないだろ。
倒れるぞ。

俺たちに休みは必要ですか?
殺すべき敵は山ほどいるのに。ゆっくりなんてしてられませんよ。

先程の祇園の皮肉は流していたアルテミスだが先程の祇園の休め発言は聞き逃せなかったらしい。

本当にお前ってやつは。少しは休めって言ってるんだよ。仕事の時に倒れられたら困るからな。それぐらい分かるだろ? お前の代わりはいないんだからよ。
いいか。アルテミス。これは命令だ。しばらく休め。じゃないとずっと俺のそばにいさせるぞ。

祇園は何としてもアルテミスを休ませようとしていた。休ませなければならない理由があったのだ。

俺は勝手にやりますよ。休みを貰っても。それが俺の救いですから。祇園さんでも止めれませんよ。

アルテミスは断固として休もうとしない。そんなアルテミスに対し祇園は

わかった。1ヶ月だけでいい。その後は自由にしても構わないから休んでくれ。

祇園は少しでも休ませようとして強硬手段に出る。

そんな祇園にうんざりしたのか、アルテミスはわかったと短く告げてその場から立ち去った。

アルテミスが去るのを見送った後、祇園はどこかやるせない表情をしながら呟いた。

アルテミス。少しの間でいいんだ。お前がもう二度と傷つかないようにしたいんだ。
そんなことお前に行ったらキレられるよな。俺を誰だと思ってるとかってさ。でもアルテミスお前はもう十分苦しんだんだ。もういいだろ?なぁ、神様。いるなら答えてくれよ。

語り口調でそう呟いた祇園は何度目か分からないため息をついてからその場を立ち去った。