2020年8月25日 晴れ

大好きだった彼から別れを告げられたのは、気温35℃を過ぎる猛暑日だった。








2022年8月25日 晴れ

目覚ましの音で私は起きた。昨日、体育祭だったせいか体のあちこちが撃たれたように痛かった。





「うな!遅刻するわよ!朝ごはん食べなさい!」




私のお母さんはいつもこうだ。高校生にもなった私をこんなふうに扱う。




「わかってるー」




体のだるさと共に階段を降り、リビングへと向かった。






学校に行く準備が終わり、家を出た。
学校までは目と鼻の先って言うほどの距離だから徒歩で行く。




「おーはよっ」




聞きなれた声が後ろからした。私の幼馴染みの優佳(ゆか)だ。




「おはよ」




私が返す返事はいつもクールぶっている。でも優佳は気にしない。10年以上一緒にいればそうだろう。




「ねぇうな?今日なんの日だかわかる?」

「んーなんの日だろわかんないなっ」




優佳は特別な日になると、こう聞いてくる。
誕生日の日も、出会った日も、ちょっとした事でも聞いてくる。
でもそれは、私にとって楽しくて、嬉しくなる話ばかりだ。


しかし、今日は違う。


8月25日。


そんな日忘れるわけがない。




「今日はうなが初恋の人と別れた日だよ。そろそろ新しい恋したら??」

「ん?そうだっけ。覚えてないよ」




私は、覚えてないふりをして笑いながら優佳に言った。実際は、鮮明に覚えている...。




「恋する気ないし、今年受験生だし!」

「そんなこと言ってると高校生活終わっちゃうよ?青春できないよ??それでもいいの?」

「青春なんて...」




私は青春という言葉が嫌いだ。
今の時代の高校生はみんな、青春が〜、青春を〜とかって言うけど、2年前から青春と言う言葉を耳が受け付けなくなった。




「なんか言った??聞こえなかったよ笑」

「恋なんて大人になってからでもできるじゃんって言ったのー」




私は10年以上一緒にいる幼馴染みに嘘をついて誤魔化した。




「今を楽しまなくちゃだよ!」




幸い嘘には気づかれなかった。




「でも考えてみると、うなと葵、めちゃくちゃお似合いだったのにな〜」




ドクン。


葵...この名前を聞くといつも胸が鳴る。
なんで好きでもないのに胸がなるのだろう。
もう会いたくない人なはずなのに。




佐野 葵(あおい)。




私の初恋の人だ。
生まれて初めて付き合った人。


でも彼は2年前、私を振った。


そう、元彼という存在になった。


今、彼は元気にしているのだろうか。

今、彼は何をしているのだろうか。

今、彼は私の事どう思っているのだろうか。

好きでもないのに彼を忘れられないでいた。




別々の高校に通っている理由もあって、彼と別れてから、1度も連絡もしていない。

会ってもいない。

音信不通というのだろうか。




あれからお互いの生活に足を踏み入れることはなかった。






ー葵、元気にしてますか。ー




8時12分。心の中でそう問いかけた。





今日、一日は彼のことで頭がいっぱいだった。


優佳から話しかけられても、頭に内容が入ってくることはなかった。




「うな〜次の授業行くよ〜」



1限目の数Ⅲの授業は何をしているかわからなかった。

2限目は生物。移動教室なのに頭がぼーっとして何をすればいいかわからなかった。


去年もそうだった。


彼への思いはないはずなのに、8月25日は忘れられなかった。


「う、うん、今行く。」


優佳にはこの複雑な思いを話すことはできなかった。








ーねぇ葵。私の事覚えてる?ー