夕方になり、うつらうつらしていると、隣の部屋に誰かが入る音がして目が覚める。
少しすると、壁をトントンされた。
え?壁?
戸惑っていると、引き戸になっている壁が開いた。
よく見るとこちらからも開けられる。
端正な顔立ちの、背の高い高校生くらいの男性だった。
「茉愛ちゃん?」
顔に劣らず素敵な声で、私の名前を呼んだ。
「…はい」
彼は私の前に膝をついて、
「今日から、俺の家政婦さん。よろしくね」
「こちらこそ、不備がないように、務めさせていただきます」
「そんな堅くなくていいって。あ、俺は秀永。高校3年生」
「そうなんですね」
秀永さんは立ち上がって、部屋に戻っていった。
所作のひとつひとつが紳士的で、ドキドキした。
家政婦が、何ドキドキしてるんだ?
バカ…。
再び、トントンと壁を叩かれた。
「…はい」
「茉愛ちゃん。早速のお願い。夜ご飯作ってくれるかな?なんでもいいよ。茉愛ちゃんの得意料理、作って」
「家政婦ですから、頑張りますけど…そんな大層なもの作れませんよ…?」
「茉愛ちゃんの手料理が食べたい」
王子様の笑顔には抗えなかった。
王子様と、ただの家政婦。
分かってるよ。
近付けるのは、ただ家政婦だから。



