横浜山手の宝石魔術師


時間も夕方ということもあって中は朱音達しかおらず、トミーは席に座ってもきょろきょろと見回し、外のバルコニーの席に座れなかった事が残念な様子だ。

暖かい日なら良いだろうが、今日はバルコニーの席は出られない。

春になればローズガーデンには沢山の薔薇で彩られ、多くの人がその景色を楽しむのだろう。

テーブルに頼んでいたカフェ・ザ・ローズ オリジナルローズティーとケーキが運ばれ、朱音はチーズケーキ、トミーはアップルバイが前に置かれ、二人は歩き疲れたのもあって早速口に運ぶ。


「Delicious!」


「この紅茶も本当に薔薇の香りがふわっとして」


朱音は日本語で言ったが、トミーはわかっているかのように笑顔で頷き、朱音も笑顔を見せる。


「ムスメトイツカキタイネ」


ふとトミーが庭を見ながら呟く。

その視線の向こうには庭園の中を父親と小さな女の子が嬉しそうな顔で手を繋ぎ歩いていた。


「お嬢さんがいるんですね」


「ハイ。アカネトオナジクライ。トテモビジン!」


そういうとジャケットの胸ポケットから名刺入れのようなものを出し、その中の紙を大切そうに取り出して朱音の前に差し出し、朱音は指をナプキンで拭くと、その小さな写真を受け取る。

そこにはトミーと同じ髪色の、笑顔のとても可愛らしい少女が写っていた。

浅草雷門の前で和服に身を包み、提灯を指さし満面の笑みで写真に写る少女に、どれだけ彼女がこの時間を楽しんでいるのかが伝わってくる。

しかし、娘と来たかったというのにこの写真は日本で撮られたもの。

朱音はトミーの娘が既に日本にいない、何故一緒に来なかったのか不思議に思った。