横浜山手の宝石魔術師


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一月も半ばの土曜日、朱音は濃いピンク色のセーターにジーンズ、その上にベージュの少し長めのコート、もちろん胸元にはラピスラズリのブローチをして元町ショッピングストリートで買い物を終えて洋館に向かう道を歩いていたら、歩道で誰かが洋館を見ている。

横浜山手洋館地域は公開されている場所以外にも所々に洋館があるため、観光客がこの洋館を見に来たりすることもある。

だが立っている男は外国人で年齢は五十か六十歳くらいの冬真の艶やかな髪とは違い至る所が跳ねた黒っぽい髪で、黒のコートに古びた革製の大きな鞄を持って顔を上げ洋館を見ている姿に朱音はもしかして冬真の親戚なのかと気になった。

朱音が今は細いツタしか絡んでいない入り口にあるアーチの前に来ると、男が朱音に気が付いた。


「めい あい へるぷ ゆー?」


念のためとその言葉だけ覚えていたが発音もたどたどしく、目の前の男はきょとんと朱音を見ていたが、オー!と大きな声を上げ朱音はビクッとする。

笑顔の男が朱音に前のめりで近づいてきたかと思うともの凄いスピードの英語で話しだし、朱音は引きつった笑みを浮かべながら単語だけでも聞き取れ無いか必死になっていた。

言い終わったのか、笑みを浮かべた男につられるように朱音も笑みを浮かべる。


『多分冬真さんの名前言ったはず、それにここにいるのか聞いた気がする、多分』


もっと長く話していたのだから他に話していたことはあるのだが、朱音はなんとか聞き取った言葉すら怪しく、そもそも質問してもどう英語で返答したら良いのか、朱音の頭の中は高校時代の英語教師のよくわからない授業と、今鞄の中にあるスマートフォンの翻訳アプリという文明の利器に頼るべきか、シャッフルされている。


「アナタ、トーマズガールフレンド?」


にこにこと人の良い笑顔で言われ、朱音は急な日本語に混乱していた。