「今日はお疲れ様でした。
疲れて眠れないならアレクにお酒を用意させましょうか?」
優しくそう声をかけられ、朱音は目を見開く。
言いたいことが沢山ある。聞いてほしいことが沢山ある。
でも冬真はそれだけで何も聞いてこないし、踏み込んでこない。
それが朱音の心を酷く苦しくさせ、次に出す言葉が出なくなってしまった。
「・・・・・・お休みなさい」
朱音は俯いて何とかそう言うと、自室のドアを開ける。
「朱音さん」
再度呼びかけられても朱音は振り向かない。
そんな朱音を見て冬真は少し目をつむり、再度目を開けると優しげな視線を背中に向ける。
「もうこんな時間です。
明日、ゆっくり話しましょう」
その言葉に朱音の背中が少し揺れる。
朱音は振り向かずに、はい、とだけ言うと、そのまま部屋に戻った。
ドアが閉まるのを見て、冬真は階段を上り二階に行く。
すると今度は健人の部屋のドアが開き、冬真は健人の方を向いた。
「朱音さんを見ていてくれてありがとうございます」
「・・・・・・お前は自分の行動や言動が自分にどう跳ね返るのか、本当に理解しているのか?」
鋭い顔つきで健人に問われ、冬真は健人に視線を向けたまま、えぇ、と答える。
「俺にはそうは思えないんだけどな。
お前の欠落している部分で一番大きいものが、自分自身の心への鈍さだよ」
そう言うと健人は部屋のドアを閉めてしまった。
ドアを見つめた後冬真は自分の部屋に入ると、電気もつけずそのドアにもたれかかる。
「そんなものに敏感だとして、何になると言うんでしょう」
冬真は部屋の隅の暗闇から出てきた黒い大型犬に視線を向け、
「朱音さんをよく守りましたね・・・・・・アレク」
そう言うと、足下にすり寄ってきた艶やかな毛並みの自分の使い魔であるその犬に手を伸ばし撫でる。
カーテンの引いてない窓からは暗い部屋に月明かりが差し込み、冬真はドアにもたれたままずるずると滑るように降りて長い足を投げ出した。
黒い大型犬は、窓を見ているのかそもそも何も見ていないのかわからない主の側で、寄り添うように座った。



