横浜山手の宝石魔術師


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足音の響く狭い階段を上がり、薄暗い廊下にある突き当たりのドアを開ければ、またその中も薄暗い。

異様な香りが充満する部屋の床には白い顔に短い黒髪の人形が転がっているのを冬真は気にもせず踏みつけ、奥のドアを開ける。

奥に行くことを阻むように上から床にかかりそうなほど長いシフォン生地を無造作に掴み勢いよく手を振り下ろせば、上に仮止めしてあったピンが上からバラバラと落ちながら目の前が開け、奥にあるテーブルの向こうに座るそばかすの女が冬真を見ると微笑んだ。


『確認させてもらったよ』


聞こえてきた英語はさっき朱音が聞いた男の声だが、冬真は特に表情を変えることも無くただ座ったままの女を見下ろしている。


『君を疑うわけでは無いが、つい自分で確認をしたくなるタチでね。

なので気を悪くしないで欲しい。

あぁ、そろそろ搭乗の時間だ。では、また』


男の声が終わると、女は糸の切れた人形のように椅子から地面に倒れ大きな音が部屋に響く。

冬真は倒れた女を無表情に見下ろしたままで、助けることも無い。

その女の口から、ビー玉くらいの真っ赤な石が床に転がり出てきた。

そこに浮かんだのは薔薇十字。

その紋章が燃えるように広がって、その石は消えた。

少しして背後から数名の足音が聞こえ、冬真の後ろでその足音は止まる。


「・・・・・・逃げたようです」


「そうだろうね」


冬真は背後に来た相手に振り向かずにそう言うと、その中の背の低い女がため息交じりに答えた。


「何か、言ってたかい?」


そのまま誰の顔も見ようとせず部屋を出て行こうとした冬真に女は声をかける。


「いえ、何も」


それだけ冬真は言うと、その部屋を後にした。


女はそんな冬真が部屋から見えなくなったのを見て、またため息をつく。

振り返り床に倒れた女を他の者達が抱きかかえているが、気を失っているだけのようだ。

この場所について女に連絡をしてきたのはアレクでそれもついさっき。

冬真が先に情報を握り自分たちが駆け付けた少しの間、ここで何かがあったのは想像しやすいことだった。


『もう少し監視をすべきかねぇ』


女は内心そう呟くと、足下に広がる美しいシフォンの生地を踏みつけた。