横浜山手の宝石魔術師



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朱音のいる奥の部屋のドアに視線を向け、真央はそわそわとしていた。

もう少しで念願のブレスレットを手に入れられる。

学校では有名な洋館に住むあの美しい男性を見たその夜、真央は人を好きになって眠れなくなるという経験をして、いつか少しでも彼と話すことが出来たのならと夢見ていた。

親友にはそんなのはアイドルオタクみたいなものだと呆れられたけれど、その親友が一番自分を心配してこんなことにまで付き合ってくれる。

隣で眠そうにあくびをした親友、絵里を見て真央はくすっと笑う。

今日受け取るインカローズのブレスレットをつけて、今日は会えなくても諦めずにいつもよく顔を出しているというあのカフェに行って声をかけよう。

怒りっぽいのにとても優しい親友が、褒めてくれるに違いない。

そんなことを真央は思って嬉しさに頬が緩む。


「どうしたの?」


「ううん。絵里ちゃん、いつもありがとうね」


「何、急に」


絵里の言葉に真央が答えると、絵里が不思議そうな顔をした。


バタン!!という大きな音に絵里と真央が同時に奥のドアを見ると、鞄を持った朱音が走ってきた。


「逃げて!!」


もしかしたらさっきいた女に二人が捕らわれているのではと心配したが、女はなぜかそこにはおらず、椅子に二人は座ったまま朱音を見る。

だが朱音の必死の形相と声を目の前にしても、二人は訳がわからず不思議そうに朱音を見ているだけ。

朱音が振り向けばとてもゆっくりとあの女が歩いてきて、朱音は二人の手を掴むと入り口に引っ張った。


「あの、一体」


「ドア開けて!!」


絵里の戸惑った声に、朱音は焦りながら声を荒らげる。

だがそれが二人には朱音に不信感を抱かせ、絵里は朱音の手を振り払った。


「私達、まだブレスレット受け取ってないので」


嫌そうに言われ、朱音はどう説明したら納得してもらえるのか混乱する。

ぎゅ、と背後から手首を掴まれ、朱音は心臓が止まりそうになった。


「待て」


女から低い男の声が聞こえたことに、絵里と真央は顔をゆっくりと見合わせた。


「逃げて!!」


再度朱音が声を上げると、絵里が真央の手を引っ張りドアを開けて走り出した。

絵里と真央もその声にゾッとしたのだ。

真央はすぐに動けなかったが、運動神経の良い絵里がすぐに動いた。条件反射に近かったかもしれない。

鞄と真央の手を掴み薄暗い廊下を突っ切り階段を駆け下りる。

薄暗さと階段が降りにくくて思わず踏み外しそうになったのを絵里は耐えてビルの外に出て振り返った。

真央は硬直した顔で息を切らせている。

二人はビルの外から朱音を待つべきかもっと逃げるべきか迷っていた。