横浜山手の宝石魔術師



「朱音さん」


女の呼びかけに朱音は俯いていた顔を勢いよく上げれば、目の前の机には何故か、冬子として出会った時に見かけたあの部屋にあった同じハーバリウムが置いてあった。

もしかして占い師の中で流行しているのだろうか。

洋館に住むようになってたまたまあの仕事部屋に入ったときには、このハーバリウムは無くなっていた。

冬真にその事を聞くと、ヒビが入ってしまって危ないので処分したと聞かされ、とても残念な気持ちになった。


「この中にあるものの色を教えて下さい」


女は屈託無い笑みで朱音に問いかけた。

朱音はじっとそのハーバリウムを見る。

中に入っているものも色もあの仕事部屋で見たものと全く同じ。

後でこれがどこに売っているのか教えてもらおう。

朱音はそう思いつつ声を出す。


「青い薔薇と、スワロフスキーのようなキラキラした石が入っています」


「石の色を教えて下さい」


「赤と、紫、うーん、これは虹っぽいような色です」


「・・・・・・Excellent」


突然、その女の口が動き、低い男の声がした。

朱音は英語で、それも男の声が目の前から聞こえたことに戸惑いじっと女を見つめるが、女は何事も無かったように笑みを浮かべた。


「わかりました。ではインカローズにパワーを込めましょう」


女は横に置いてあった引き出しから何かを取り出し机に置くと、それはインカローズのブレスレットだった。

大きめの、まるで血を薄めたような赤の石が一つあり、それ以外は水晶らしき透明の石が囲んでいる。

女は自分の手のひらにそれを乗せ、両手で挟むと目を瞑る。

ぶつぶつ何か言っているようだが、朱音は足下に置いた鞄から何か点滅してる光があることに気が付いた。

もしかしたら冬真からかもしれない。

朱音はそっと上半身を曲げ、鞄の中に手を伸ばそうとした。


「調整が終わりました」


女の声に慌てて朱音は身体を起こすと、


「では右手を机に置いて下さい」


朱音は言われたとおりに手を置き、女はブレスレットのゴムを伸ばし朱音の手を通らせていたら朱音の指にそのブレスレットが当たり、その瞬間、ブレスレットが弾けるように四方に飛び散った。

カツン、カツン、と床に石達がぶつかっている音が静かな部屋に響き、朱音は驚いて椅子から降りると散らばった石を一粒一粒拾い上げる。

自分の足下にインカローズが一粒落ちていたことに気が付き、朱音がそれに触れた途端、その石が砕け散った。

朱音はまさか石自体が砕け散るとは思わず、触れた石が割れたことを女に謝罪しようとしたが、さっきまで座っていた女が俯いたまま揺らりと立ち上がる。


「あの」


「The worst」


低い男の声が目の前から聞こえ、朱音には英語のようだというだけでなんと言ったかはわからないが、さっきの声が聞き間違いでは無かったと確信した。

俯いていた女が顔を上げ、朱音を見る。

さっきまでの笑みは無く無表情で口を動かした。


「英語が通じないのか。

これならわかるだろう?私の言葉が」


女の口から聞こえてきたのは男の声だった。