横浜山手の宝石魔術師



冬真はそれを見て話を始めた。


「皆さんは『ロードクロサイト』という石をご存じですか?」


冬真の質問に、生徒達は顔を見合わせたり首を振ったりしている。


「それが皆さんの大切にしているインカローズの事です」


学生達が一応に驚いた表情になった。


「順番に話しましょう。少し難しいと思うことや、勉強のようだと思うこともあるかもしれません。

でも好きな人を知るには少しくらい苦労があるほうが楽しいものです。

ちょっと物知りになれる、と思って軽い気持ちで聞いて下さいね」


冬真が優しく言うと、学生達がホッとしたような顔をしたり、軽い笑い声が上がった。


「まず『鉱物名』というものがあります。

地球上には約5000種の鉱物が存在しますが、その中で宝石と呼べるものはほんのごくわずかです。

『ベリル』というのも鉱物名ですが、それで何の宝石が思いつきますか?

エメラルドとアクアマリンが代表される鉱物です。

そうやって大きなくくりが『鉱物名』になります。

鉱物名、ロードクロサイトが正しい名称なのですが、インカローズという名前の方が有名になってしまい、一般の人ではロードクロサイトと言われても何の石かわからないでしょう」


冬真は後ろに置いたホワイトボードにさっき書いたロードクロサイトという文字の横に線を引きインカローズと綺麗な字で書く。


「ロードクロサイトは立派な宝石です。

木イチゴのような赤、ピンクが美しいのですが非常にもろく、ジュエリーとして扱うには本来不向きなものです。

皆さんもブレスレットにしていますが、割れたから不吉なんてことはありません。

もともともろい石ですので、クラック、いわゆるヒビが入っていたり、机などにぶつけてしまえばそのうち割れるのは当然です。

なので気にしなくても大丈夫ですよ」


ロードクロサイトはモース硬度3半~4半とされている。

モース硬度とは『あるもので引っかいた時の傷のつきにくさ』を10の基準宝石を使って相対的に判定している。

硬度10はダイヤモンド、人間の爪は硬度2半くらいとされ、宝石として身につけるのなら硬度7以上が出来れば良いとされていて、硬度7の標準鉱物は水晶である。


「そして今日の題名でもあるインカローズですが、実はロードクロサイトをインカローズと呼ぶのでは無く、ロードクロサイトの一部が本来インカローズなのですがお店では混同して使っているようです。

皆さんに二種類の石をお見せします。どうぞ見終わったらお隣に回して下さいね」


そういうと冬真はベルベットのトレイを一つを前列に、もう一つを後列の学生に渡した。

そのトレイの上には、小さな白いプラスチックケースが二個あり、中に綿に囲まれた丸い石が入っていて、学生達が見ながら話しつつ自分のブレスレットと比べている。

全員が見たのを確認し、冬真が二つのトレイを回収し、白いケースを学生達に見えるように持ち上げた。