横浜山手の宝石魔術師



「そういえば、何故ここの前を通られていたんですか?」


ふとした冬子の質問に、実は、と苦笑いを浮かべ見合いに疲れプリンを洋館に食べに来たが閉店して食べられず、どこかカフェが無いか探していたのだと恥ずかしそうに話すと、冬子が笑顔を浮かべ手をたたいた。


「なんて偶然!実は先ほどプリンを頂いたんです。

同居人の分もと沢山頂いたのですが帰ってくるのは早くて明日ですし、賞味期限は今日までなのにさすがに食べきれないと困っていて。

よろしければ一緒に食べませんか?」


「え、でも同居人さんが戻られたりは?

明日くらいなら味は持つんじゃ無いですか?」


「いえ、当分帰ってきませんし、手作りなので早めに食べた方が良いんです。

お時間はまだ大丈夫ですか?」


「あ、はい」


「では決まりですね!

紅茶も準備しますからここで待っていてください」


「私も何か手伝います!」


にこにこと椅子から立ち上がった冬子を見て、慌てて朱音も立ち上がる。

何だかさっきからしてもらってばっかりで、その上デザートまで出てくるなんてさすがに贅沢すぎる気がして落ち着かない。

年齢的にも仕事場では一番動く立場であり、朱音はしてもらうことにあまり慣れていないせいか戸惑ってしまう。

そんな朱音に少し目を細めて冬子は優しく声をかける。


「朱音さんはお客様です。それも私がご迷惑をおかけしたんです。

ホストである私が準備するのは当然のことなのですよ?

それに手伝ってくれる者もいるのでご心配なく」


そういうとウィンクし笑顔を浮かべ、部屋を出て行った。

朱音は呆然とその姿を見送り、椅子に腰を下ろす。

何だか冬子には全てお見通しなのでは無いかと思いそうになるが、それに怖さは感じない。

妙に裏を読んでいる人に会うこともあるが、そういう人は打算が透けて見えて怖さや嫌悪感を感じることがある。

彼女はカウンセリングをしているというのだから、多くの人を見てそういう細かいことに気が付き配慮できる人なのだろう。

朱音は純粋に感動しつつ、また一人になったこの部屋を見渡す。

さっき座っていた椅子からは見えな無かった場所に、目がとまった。

円柱のガラス製の瓶に、小さな青い薔薇が一本と、小指大くらいの宝石のように光るものがいくつか浮いて入っている。

流行のハーバリウムというやつだろうか、見たことも無い美しさに朱音はただじっと眺めていた。