十分前に待ち合わせ場所についたが既に健人が立っているのを発見し、ポニーテール、可愛らしい小花が胸元に刺繍されたTシャツに明るめの色のクロップドジーンズ姿で朱音は慌てて駆け寄る。
「すみません!」
「急ぐなって。転ぶぞ?」
白い歯を出して笑う健人を見上げれば、髪の毛がまだ濡れているようで、いつも固そうな髪が少し柔らかそうに見えるだけで失礼ながら学生かと思うほど若いように朱音には思える。
「夕飯、なんかリクエストあるか?」
「特にないです」
「なら俺の知り合いの店で良いか?
飲み屋なんだが飯は美味いから」
そういうと、元町ショッピングストリート方向に二人は歩き出した。
元町ショッピングストリートは、JR石川町駅からとみなとみらい線元町中華街駅の間にあり、『キタムラ』、『ミハマ』、『フクゾー』という元町を代表する有名ブランドから、外国人向けの商品を扱う店、少し裏に入ればお洒落な飲み屋や昔ながらの店もある。
朱音は時々みなとみらい線元町中華街駅に近い、アメリカ山公園からこの元町ショッピングストリートに買い物に来ることはあるが、いる人が皆お洒落、売っている物もお洒落なので、必要最低限のものだけ買ってあとはウィンドウショッピングをして帰宅するだけだった。
慣れたように歩く健人の少し後ろを歩いていると、健人が気が付き歩くスピードを朱音に合わせて抑える。
朱音はそういう気遣いを男性にされると何だか恥ずかしい気持ちが沸いて、少し俯いた。
たどり着いた店は少し裏路地にあり、濃い茶色のドアをスライドすれば外からは気が付かなかったが既に人がそれなりに入っている。
「おう、橘」
食器を片付けていた男が健人に気が付き声をかけた。
「奥空いてるか?」
「空いてるよ」
そう答えた店員は健人と年が変わらなそうで、健人より身長は低いが体格も驚くほど似ている。
「また泳いでたのか?水から離れられないな」
「お互い様だろ」
店員が隣を通る健人に笑いながら声をかければ健人も笑って答え、朱音はその言葉の意味を不思議に思いながら店員に頭を下げると、驚いたような顔で朱音を見ている。
奥に行くとちょっとした引き戸のある個室で掘りごたつがあり、朱音が入り口に近い方に座ろうとしたら、健人が笑って朱音を奥に座らせた。



