「全然筋肉ついてないのにガチガチじゃねーか。

デスクワークの弊害だな、運動しろ、運動」


そういって見上げれば、朱音は呆然とした顔で固まっている。

あまりに流れるような健人の行動に、悲鳴を上げることも出来なかった。


「・・・・・・健人」


静かな声に健人と朱音がそちらを向けば、冬真がきっちりとしたスリーピースを着て笑みを浮かべている。

笑みを浮かべているが、目は一切笑っていない。

隣にいるアレクが無言で何かを差し出し、冬真はそれを見ずに左手で受け取ると口元に持ってくる。

それはてのひらより小さいメダルのようなもので、図形が刻まれていた。


「昨夜、タリスマンを作ったのですが、こんなに早く試す機会に恵まれるとは」


そう言ってそのタリスマンに軽く口づけ口角を上げた冬真を見て、ばっと健人が立ち上がり降参するように両手を挙げた。


「それが何かはわからんがやめてくれ、誤解だ」


「タリスマンとは精霊の力を宿らせた護符のようなものです。

呼び出す精霊と目的を決め、その精霊に応じたシジル、記号のようなものをこのような金属や紙に刻み、精霊を召喚してこの円形の金属に力を注いでもらえばタリスマンの完成です。

ちなみにこれは、わいせつ行為をする人間を消し去ることを目的としています」


笑みを浮かべロビーにいる健人に冬真がゆっくりと近づけば、健人は慌てて朱音の後ろに隠れた。

健人がいくらしゃがんでも大きすぎて何も隠れてはいないが。


「俺はわいせつな事なんてしてないぞ!

単に筋肉量を確認しただけで!

第一そんな護符、朱音にやれよ!」


「残念ながらタリスマンは自分で作って自分で使う物で、人に渡す物では無いんです。

なので実験しますね」


「お前にその護符が必要になる意味がわからん!」


大きさでは健人が冬真より上なのに、冬真の方が熊か虎で健人が尻尾の下がった大型犬のようだ。

朱音はその間に挟まれオロオロする。


「あ、あの、私は大丈夫です、びっくりしただけで」


「OK. He is guilty.」


「お前がネイティブに英語話すと怖いんだよ!」


朱音はフォローしたつもりだったが、冬真はすっと目を細め低く呟き、健人がより怯えている。


「市中引き回しの上獄門、の方が良いですか?」


「俺が悪かった」


何故か日本流の古い刑罰を言い出され、健人が再度降参して謝罪した。


「僕はこれから仕事なんです。

帰りは遅くなりますから、健人、わかってますね?」


冬真がアレクにタリスマンを渡しため息をつきながらそう言うと、健人はやっと朱音の背中から出てきた。


「晩飯は朱音と食べれば良いんだろ?

わかってるよ、これから言うところだったんだ」


「いえ、私は一人で何か買って食べますし」


「この流れでお前を独り飯なんてさせたら、俺は市中を引き回されるんだよ、わかってくれ」


朱音は深刻そうな表情の健人に言われ、苦笑いで頷いた。