横浜山手の宝石魔術師




「さて次は僕ですね」


そう言うと、手のひらに収まるくらいのリボンがかけられラッピングされた正方形の箱を差し出した。


「気に入っていただけると良いのですが」


開けるように促せば、朱音は緊張したように綺麗に包装を剥がし、箱をぱかりと開けると、飛び込んできたのはえも言われぬ赤。

小指の爪より小さいサイズの赤い石が金色の台に一粒留めてある、とてもシンプルなネックレスだった。

深みのある赤なのに暗さが無い。

上品な濃さというのだろうか、 引き込まれるような赤に、朱音は食い入るように見つめてしまう。


「朱音さんの誕生石なのでルビーを。

既にお持ちかもしれませんが、良い品ですので」


「いえ!宝石はあのラブラドライトだけしかもってません。

いつかルビーは欲しいなって思ってたんです」


「それは良かった」


「おい、あのルビー、ただのルビーじゃないだろ」


健人がテーブルに肘をついて手に顔をのせながら嫌そうな顔でにこにことしている冬真に突っ込んだ。


「ルビーはルビーです」


「お前のおかげで少しは宝石見てるし、こっちは色を扱うプロなんだ。

あのルビーはその辺のルビーの色と段違いだろうが」


「どういうことですか?」


あー嫌だ嫌だ、と手を振りながら健人が言うと、朱音が戸惑ったように冬真を見る。

確かに素敵な赤だなぁという印象は抱いていたが、ルビーに詳しいわけでも無い朱音には、これがいくらするのか、どういうものかなんてさっぱりわからない。


「まぁ良いじゃ無いですか」


「朱音はこのあとこのネックレスを質屋に入れるかもしれないぞ?

安く買いたたかれないためにも情報が必要だろ」


「そんなこと絶対にしません!」


朱音がそう必死に言えば、冬真がくすっと笑う。


「そうですね、いざというとき朱音さんの助けになるかもしれませんし話しておきましょうか」


しませんってー!と訴える朱音に、健人が良いからよく聞いとけーと面倒そうに声をかけた。


「ルビーの価値を決める物はいくつかありますが、カラットは別としてやはり色と透明度、そして産地などがあるでしょう。

そしてルビーの中でも別格扱いなのは『ピジョン・ブラッド』です。

いわゆる『鳩の血』と呼ばれる物で、産地はミャンマー、昔のビルマのモゴック鉱山のみで産出され、ダイヤモンドよりも遙かに高額で売買がされます」


『ピジョン・ブラッド』というのを初めて朱音は聞いたが、鳩の血、といわれても色はピンとこない。


「ルビーは大昔からまじないやお守り、それこそ魔術に使われるほど歴史ある宝石で、その理由は赤、人間の血の色をイメージして、とても強いパワーをその色から感じ取ることが理由の一つなんです。

人間にも静脈と動脈の血の色は違いますよね?

身体中を巡り二酸化炭素を多く含んだ静脈血ではなく、酸素を多く含んだ美しい動脈血のような色が美しいと・・・・・・二人ともついてきてますか?」


まさか理科のそれも血液がどうのこうのという話題が出るとは思わず、朱音も健人も目を点にして完全に授業を理解していない生徒状態だ。

冬真が一人ずつに視線を向けると、教師から当てられたくないとばかりに二人とも顔を背け、冬真は苦笑いを浮かべる。