横浜山手の宝石魔術師


パッとダイニングが暗くなり、キッチンからカラフルなキャンドルが所々に灯り、真っ赤なイチゴがふんだんに乗った誕生日ケーキ定番とも思えるショートケーキをアレクが運んできた。

テーブルの上へ慎重にケーキの乗った皿が置かれると、


「さすがに歌は勘弁として」


その健人の言葉に合わせるように、冬真と健人が笑顔で誕生日おめでとうと朱音に言えば、朱音は三人を見てぎゅっと胸が一杯になって、今もの凄く自分は変な顔をしていそうで暗くて良かったと思った。


「朱音さん、火を吹き消して下さい」


冬真に声をかけられ朱音が慌てるように大きく息を吸い込んだ後キャンドルの火を吹き消せば、二人が拍手をしてアレクが部屋の電気をつける。


「ありがとうございますっ!」


友人達にも毎年祝ってはもらっていてそれもとても嬉しいのだが、こんなにも温かな誕生日はそれこそ自分が子供の頃以来では無いだろうか。

気が付けば家族はすれ違い、母親の死後、父親から誕生日を祝ってもらうことは無かった。

母親が手作りしてくれたケーキを母と二人だけで食べた記憶が蘇り、朱音の視界がぼんやりしそうになる。

すぐ近くにアレクが来てケーキを切り分けだし、平たい大きな皿の真ん中に切り分けたケーキをのせると、チョコレートのペンを出しすらすらと皿の縁に書き出す。


「俺もやりたかった」


健人が前のめりでそれ見ていると、アレクが無言で皿とペンを差し出せば、健人が意気揚々と何かを描きだした。


「最後お前ね」


うっと珍しく冬真が戸惑うと、覚悟を決めたようにペンを受け取る。

上手く進まないのか、あっ、とか、あれ?とか言いながら真剣に向かい合い、最後心底申し訳なさそうにケーキの乗った皿を朱音に差し出した。

横では健人が、お前に不器用な物なんてあったんだなぁと冷やかしている。


「すみません、下手で」


冬真が差し出した皿には、Happy Birthday朱音の他に、ケーキを飾るように薔薇が沢山描かれ、隅の方に、おめでとうございます、と文字が途切れ途切れで波打ったように描かれている。

すぐに誰が何を描いたかわかって、その一つ一つが愛おしい。

さすがに朱音は我慢できなくなって、


「すみません、スマホ持ってきます!」


と言って急いで部屋に戻ると、すみません!と言いつつ戻ってきた朱音が、


「写真撮らせて下さい!これだけは絶対残したいんです!」


そう言って必死に写真を撮りだし、健人は笑い、冬真も優しく見守った。


やっとアレクも座って一緒にケーキを堪能し、アレクが紅茶を準備し始めると健人が、


「さて、どちらが先に渡すか・・・・・・」


そう言いながら健人と冬真が向き合い、


「最初はぐー!じゃんけんぽん!」


と真剣な顔で突然じゃんけんを始め、朱音はぽかんと目の前の男二人の勝負を見ていた。

勝負はパーを出した健人が開いた手を悔しそうに掴んでうなり、チョキを出した冬真が不敵に笑っている。


「僕は後攻で」


「くそう、俺だって後攻が良かったが、まぁしゃーねぇ」


ごそごそと隣の椅子に置いていた大きな紙袋から出した物を、朱音に差し出した。


「誕生日おめでとう」


ありがとうございますと言って受け取れば、それはシンプルなシルバー色の額に入ったイラストだった。

この洋館を正面から描いてあって、洋館の前に小さく人が三人いる。

両腕を持ち上げ何かポーズをとっているTシャツ姿は健人、薔薇を一輪持っているスーツを着ている男は冬真だ。

その前で黒い大型犬と戯れている女性、それが自分なのだとわかった。


「誰が誰かわかったか?

ちなみにそれ水彩で描いた一点物な。

オークションに出すなよ?」


「こんな素敵なお宝、誰が出すって言うんですか!

でもその、凄く勝手なことなんですが出来ればアレクも入れて欲しかったなぁって」


「アレクは」


げし、と健人の隣で紅茶を差し出したアレクが健人の足を容赦なく踏みつけ、思わず、ぎゃ、という声を出してしまったので朱音が健人を見た。


「あーアレクは、な、描かれるの苦手なんだよ」


「そうですか・・・・・・。

でもこの真っ黒なわんこは?」


「それはな、この洋館に伝わる幸運の黒い犬だ」


再度げし、と健人の足をアレクに踏まれ、おおぅ、と小さい声を出して健人が痛さで前のめりになる。


「幸運の黒い犬?」


「お前もいつか見つけたときは目一杯抱きしめると幸せが来るぞ?」


わぁ!と楽しみだといわんばかりの笑顔で再度絵を見ている朱音を前に、健人に向けるアレクの目は、コロスと言わんばかりに殺気立っていた。


「ありがとうございます!大切します!」


絵を抱きしめ幸せそうに笑う朱音を見て、健人はそりゃー良かったと白い歯を見せてわらった。