横浜山手の宝石魔術師



冬真が椅子を引き朱音が席に座れば六人掛けの広々としたテーブルに、朱音の目の前に冬真、その横に健人が座り、テーブルの上を見れば目の前の大きなお皿にピンク色の綺麗に折りたたまれたナプキン、両端には磨かれた銀製のスプーンやフォークなどが並ぶと共に箸も置いてある。

まるでフレンチでもスタートしそうだと思ったら、


「一皿目はどうぞ手でお召し上がり下さい」


ナプキンを取るとアレクはその皿は下げて、コトリと置いた大きな皿の中には小さな料理が乗っていた。

一口サイズのパイ生地の上には生サーモンのスライスとホイップしたようなもの、そしてキャビアが乗っている。


「このホイップ、何?」


「クリームチーズをベースにしたものです」


「お、ほんとだ美味い」


健人の質問に特に表情も無くアレクが答えれば、大きな口を開けて一口で食べてしまった。

その美味しそうにしている顔を見て、朱音も一口でそれを食べる。

サクサクとしたパイ生地にふんわりとしたホイップ、ちょっとしょっぱいキャビアなどが絡みたまらない。


「凄く美味しい!

まさかパイ生地から作ってないよね?」


「作りました」


既に空いた皿を片付けていたアレクが無表情なまま事もなげに言うので朱音は驚いてしまう。

朱音もアップルパイを作ったことがあるが、パイ生地は冷凍品を使用していたし、パイ生地から作るなんて大抵プロくらいなものだ。


「アレクって凄いよね、何でも出来るし。

お嫁さんに来て欲しい」


しみじみ朱音がそういうと、前からぶはっ!という健人の笑い声と、冬真が横を向いて笑いをこらえていて、朱音の皿を片付けようとしたアレクの眉間に皺が寄った。


「ねぇ、私も手伝うからアレクも一緒に食べようよ」


「・・・・・・今日の主役が手伝っては本末転倒です」


そう言ってスタスタとキッチンに行ってしまった。


「アレクとしては朱音さんに喜んでもらうため色々頑張っていたんですよ。

せめてケーキを食べるときは一緒に食べましょう」


「これがアレクからのプレゼントなんだから、朱音はまず受け取ることに専念すりゃいーの」


寂しそうにした朱音に、冬真と健人がフォローする。

朱音は次に来たカラフルなムースが目の前に出されると、


「ありがとう、後で一緒に食べてね」


アレクはちらりと朱音を見て、はい、と答え冬真達の方へ料理を出していると、健人がニヤニヤと何か小声で言ってアレクに睨まれていた。


どの料理も見た目も素敵で美味しく、朱音はこんなに美味しいフレンチを食べるのは初めてでスマートフォンを持ってきて写真を撮れば良かったと心から後悔した。

目の前の朱音が驚いた顔をしてこちらを見ているのに気が付いた冬真が、朱音に声をかける。


「どうしました?」


「箸を使ってるので驚いて。

フレンチなんて絶対ナイフとフォークしか使わないと思ってました」


「僕はハーフですし、それなりに日本にも住んでいるので箸の素晴らしさを理解しています。

考えてみて下さい、沢山のフォークやナイフ、テーブルの場所も取れば洗い物も増える。

箸は万能ですよ、これで大抵のことは事足りる。

フレンチだから箸は駄目だなんてナンセンスです」


真顔で力説した冬真に朱音が驚いていたが、思わずぶふっ、と声が出て慌てるように口を覆う。


「テーブルマナーは大切ではありますが、この方法じゃなければ駄目だ、なんて考えを持つ人を僕は賛成しませんね。

人を不快にしない、食べるものに失礼じゃなければフレンチも箸で問題ありません」


「ステーキ出てきたら箸は食いにくいんじゃね?」


「客が箸を使っていたのなら普通切って出しますよ。

そういう気遣いの出来ない店など、二度と行かなければ良いんです」


健人の突っ込みに、さも当然のように冬真が返すので朱音はぽかんとする。

冬真はいつも上品でイギリス紳士というイメージがあるので、朱音は冬真の前で食事をするときは気をつけるようにしていたが、まさかそんな風に柔軟に考えているとは思わなかった。

そしてなにげに厳しいところは冬真らしいが。

知らない面がまだ沢山あると、朱音は未だに箸は万能と褒める冬真を見ながら不思議と嬉しい気持ちになっていた。

食事が進んで、テーブルの上がほとんど片付けられたのを見て、これからケーキかと思うと何故か朱音が緊張している。