横浜山手の宝石魔術師




*********




六月も残りわずか、朱音は仕事終えオフィスの入るビルのエレベーターに乗り込むと、決めごとのようになっている帰る時間を冬真にLINEしようかとスマートフォンを鞄から出す。

夕食を家で取るようになってから、食事を準備する時間があるため帰る時間を報告することになっていた。

付き合いなどで遅くなるときは事前に伝え、そんな時でも終わると連絡を入れることになっている。

すると駅までアレク、健人、冬真の誰かが迎えに来るのだ。

駅から洋館までは暗いし坂道ではあるが、夜の八時以降は絶対に一人で帰るなと言われ、誰も行けない場合は後で費用を払うからケチらずに必ずタクシーで帰ってくるように言われている。

心配しているからだとわかっていても、なんだか酷く子供扱いされているようであまり嬉しくは無い。

それに何か管理されているような気もして、以前、大丈夫だから一人で帰れますと言うと笑顔で却下された。

住む場所に困っていたところにあんな素晴らしい部屋を無料で貸してもらい、食事まで出してもらっている。

申し訳なくて何度か光熱費や食事の費用を出すと言っても一切受け取ってもらえない。

洋館に住むときになったとき何故前のアパートを借りたのかを聞かれ、給与の手取り額、大学の奨学金の返済、そして実家に仕送りしていることを伝えると、冬真は笑みを浮かべずに、浮いたお金は自分への投資に使って下さいと言った。

きっと投資というのは資格と取るための費用や滅多に買わない洋服などを買うことなのだろうが、朱音としては複雑な心境になってしまう。

ビルの一階ロビーを歩きながら何だか連絡をするのが億劫になりそうになったその時、後ろから声をかけられ振り向けばそれは同じ会社に勤めている女性だった。


「相良さんこの後暇?

実は飲み会参加者にドタキャン出ちゃって。

結構男性も来るし、行こうよ」


年上で明るい性格の人だが、今日は合コンなのだとお昼休み楽しそうに話していた気がするからそれなのだろう。

朱音としてはそういうのにはあまり興味が無いし、やんわりと断った。


「えー、相良さんって飲み会あってもほとんど来ないじゃない」


「すみません、お酒弱いので・・・・・・」


「ノンアルもあるし、気分転換だと思っていこうよ。

色々な人に会うのは交流広がるし、勉強になるよー」


確かに会社と家との往復だけなら新しい交流は増えない。

行こう行こうと腕を引っ張る女性に、朱音は仕方なく行きますと答え、


「連絡したいので飲み会の場所、教えてもらえませんか?」


というと、女性は心底驚いた顔をした。


「えっ、彼氏いたの?!」


「いえいえ!下宿先の大家さんに帰る時間とか連絡することになってるんです。

今日は何も言わなかったので私の分のご飯を作ってあると思いますし」


「はー?何ソレ。

もう社会人なんだし、そういうのは自分で管理すべきなんじゃないの?」


「色々健康とか心配してもらって私からすればありがたいですし、大家さんにご迷惑をかけるわけには」


「いやいや、それは駄目だよ。

そんな連絡せずに行こう!もう時間ギリギリなの、走らなきゃ!」


そういうと朱音の腕を掴んで走り出し、朱音は走りながら罪悪感を感じつつもスマートフォンを鞄に入れた。