暖炉を背にし冬子が、テーブルを挟み入口側に朱音が座る。

年季の入った色のアンティークなテーブルの脚が、えんじ色のテーブルクロスから覗く。

椅子もテーブルとセットのようで、焦げ茶の木の椅子は曲線的なデザインがほどこされ、格式高い印象を受ける。

冬子は使い古された辞書のような本を手前に置く。

横にはノートパソコンが畳んで置いてあり、何に使うのだろうかと朱音は疑問に思っていた。


「詳しくホロスコープを見るならパソコンを使う方が便利なのですが、今日は簡易ですのでこちらの本で行います。

では、生年月日を教えていただけますか?」


不思議そうにパソコンを見つめていることに気がついた冬子が説明をしながら質問をする。


「1995年7月2日です」


本を開こうとした冬子の手が止まる。

朱音はそれに気がついたが、すぐに冬子は何事もないようにページをめくり、あるページを広げた。

占星術師がよく使う『天文歴』という本は、ある程度の期間の天体位置が記載されている。

占星術とは天体、星の位置を元にその人の運命を占う方法で、古くは紀元前から存在し、今も世界において色々な方法に分かれつつも親しまれているものだ。

本来は対象者の生年月日、生まれた時間、場所等をもとに現代ならパソコンを使って出生時のホロスコープを作り、細かく読み解くものである。

だが簡易で行う場合や、天体の移動などはこちらのほうがわかりやすいこともあり、占い師にとって身近なこの本は冬子も日頃から使っているもので、今回もそれを開いていた。

興味深そうに朱音は見ていたが、とある日に赤のペンでチェックがしてあったのに気が付いた。

テーブルを挟んでいるためどの日にちにチェックをしているかまではわからなかったが。


「朱音さんの太陽星座は蟹座ですが、月星座は獅子座ですね、魅力的な組み合わせです」


「月星座、ですか?」


太陽星座というのはいつも星占いで見る星座だということはわかるが、月星座という言葉を朱音は初めて聞いた。


「星座占いで皆さんがご存じの星座は、太陽を基準にしているんです。

占星術はその人が生まれたとき太陽を含めた恒星と惑星がどの位置にあったかホロスコープを作ることでその人の本質、過去、未来までを読み解きます。

月星座というのは、太陽星座の裏を読み解く、いわばその人の中にあるものを探し出すのに必要なのです。

人間は本人が気がつかない内面に秘めたものがあります。

それを読み解くための一つが月星座です」


冬子の落ち着いた声がゆっくりと朱音の耳に届く。

ハスキーというほどでもないが女性にしては低めのその声は、何だかとても魅惑的だ。

目の前の女神のように美しい女性が、不思議な洋館の一室で自分に話しかけていることが、冬子の声を聞きながら朱音を異世界にいる気分に浸らせた。


「基本は優しく、思いやりがあり、困っている人を見過ごせない正義感のある性格ですね。

協調性もあるので人をつなぐことも上手いでしょう。

でも月星座が獅子座ということもあり、心の中では目立ちたい、活躍したいという野心も持ってます。

獅子座の熱い気持ちをうまく消化できないと、フラストレーションがたまるので要注意ですね。

あなたはもっと自分の心に正直に、思いのままに動いても良いと思いますよ」


その言葉を聞いて朱音は胸がぐっと締め付けられる。

彼女は知らない、私の状況を。

悪意の無い優しさが、とてつもない重しとなって自分にのしかかっていることも。

それを外に吐き出したことはほとんど無い。

吐き出したって、何の解決も生まないことを知っているからだ。

だけど。ここでなら、彼女になら少しくらい話しても良いのでは無いだろうか。

きっともう会うことも無い相手。

そう思っていたら言葉を出してしまっていた。