横浜山手の宝石魔術師



「ねぇ!これの実物は無いの?!」


「さっきも言いましたが、非常に希少性が高く人気なため、この写真のようなものは早々手に入れることは出来ません。

小さい物でも上質な物は本当に少ないですし、上質なパライバトルマリンを購入したいならそれなりのルートを使わなければ無理です」


理恵子は淡々と話す冬真を呆然とみていた。

提案しておいて、手元には無い、早々手に入らないと言われたのだ、一気に期待した分突き落とされた気分になるのも無理は無い。


「あの、そんなにも希少性が高いのはなぜですか?」


おずおずと朱音が横から尋ねる。


「この宝石はブラジルのパライバ州から産出したことから命名されたのですが、1989年の1年間だけ大量に算出した後は全く算出していません。

現在はモザンビークやナイジェリアで算出された物が、パライバ州から算出された物と同じ、銅とマンガンを含んでいると言うことでこちらもパライバトルマリンと名乗ることが許されました。

なので現在はパライバトルマリンという名称だからパライバ州で採れたものではないですし、やはりパライバ州の物と新しい鉱山から出たパライバは色味も違うため、金額も違います。

一番人気は本家パライバ州から算出されたものですから、たった一年で取り尽くされた物が今は小出しに販売されているんです。

値段は上がるばかりで下がることはありえません。

そして良い品ほどコレクターが持ちますので、パライバ州のものならば欠片や質の低い物でも高額で販売されていたりします」


「例えば、さっきのサファイアくらいの大きさなら?」


じっと聞いていた理恵子が思わず聞く。


「パライバトルマリンであのようなカラットがあるなら、そもそも値段がついていません」


そう言った後、既に冷えたホットチョコレートを下げて紅茶を持ってきたアレクに冬真は礼を言うと、一口飲んだ。

そんな冬真を理恵子と朱音は早く聞きたいとばかりに見ている。


「そうですね・・・・・・せいぜいあのサファイアの半分くらいの5カラットくらいだとして、あぁカラットは大きさでは無く個体の重量なんですが、パライバ州の物で高品質、カットも良いとなれば1000万くらいはいってもおかしくはないでしょう。むしろお買い得な場合もありますね」


理恵子も朱音も声を出さなかった。ただ口はあんぐりと開いていたが。

あのサファイアの大きさの半分で値段は段違い、理恵子は声を出そうにも出しにくいほどの衝撃だ。


「そ、そんなの無理に決まっているでしょう?!買えるわけが無い!」


「ですから最初に、金額は抜きにして、と前置きをしたのですが」


ぐっ、と理恵子が悔しそうに睨み付ける。