横浜山手の宝石魔術師




トントンと既に開いているドアをノックする音がして、部屋にあの黒髪の男が入ってきた。

そして朱音の座っていたソファーの隣に近づくとソファーに刺さっていた魔術武器を抜き取り、立ち上がった冬真に両手で手渡す。


「朱音さん、明日はお仕事ですか?どこかでお時間は空いていませんか?」


その棒を受け取りながら冬真が朱音に尋ねる。


「えっと休みです。特に用事も無いので時間は空いていますが」


突然のことに不思議に思いながらも朱音がそう答えると、


「では明日、今日のことについて説明をさせて頂けないでしょうか。

ネックレスもその時に。

実はまだやらなくてはならないことがあって、しばらく時間がかかりそうなんです。

待たせたあげく怖い目に遭わせてこのような形になり申し訳ありません。

あぁ、もしご自宅に帰るのが不安でしたらどこかホテルを押さえますよ?」


と、心配そうに言う冬真に朱音が慌てた。


「いえ、そんなことをして頂かなくても大丈夫です!

オバケ平気ですし、そもそも突然押しかけた私が悪いんですから。

また明日伺わせて下さい」


そう朱音が元気に答えると冬真は驚いた顔をしていたが、少し目を伏せた後朱音を見る。


「では明日十一時にご自宅に迎えをよこします。

よろしければランチをご一緒にいかがですか?」


朱音はまだ色々な状況が把握できていなかったが、ただ何が起きたのか、この人は本当は誰なのかを知りたいという思いが大きい。

はい、と朱音が答えると、こんな時間なのに女性を一人で帰すわけにはいきません、とまた問答無用で黒髪の男に自宅まで車で送らせた。

朱音は、やはり部屋に入るのを確認しようとしているのか車の横で立ったままの男に頭を下げ、入り口の郵便受けから郵便を持って部屋に戻り、窓から車の様子を見れば男は朱音を確認して帰っていった。

窓を閉めて机の上に放り投げた郵便物に目を向けると縦長の封筒にこのアパートの管理会社の名前が書かれてあるのを見つけ、面倒だけど一応と開けて見たその内容に朱音は愕然とした。

そこには『当該アパートが建築基準を満たしていないことが判明したため、来月中に退去をお願いいたします。詳細は追ってご連絡いたします』というだけの訳のわからないものだった。


「来月中に?!転居の費用は?いや、そんなの無理でしょ・・・・・・」


今日一日で起きたことがこれがトドメとばかりにのしかかり、朱音は力尽きたようにベッドに倒れた。