横浜山手の宝石魔術師



「ではよろしく」


「はい」


冬真の言葉に無表情で女が答えると朱音の寝ている部屋に消え、ロビーでそれを見ていた健人がリビングに入り冬真もそれに続く。


「で、どうすんだ?」


どかりとソファーに座った健人が、水に濡れた前髪を掻き上げて息を吐いた冬真に問いかける。


「オーナーから当分朱音さんの部屋は使えないからホテルを代替にと提案されましたが断りました」


ソファーに冬真が座ると、アレクが温かいハーブティーを冬真と健人の前に置き、冬真が一口飲んでも健人は口をつけない。


「なので朱音さんはここに戻します」


その答えを聞いて健人は額に手を当てた。


「何ですか、大賛成するかと思っていたのに」


冬真の言葉を聞いて大げさに健人はため息をつき、ハーブティーを一気に飲んで立ち上がる。


「そういうのは明日本人に言え」


そういうとリビングを出て行った。




朱音は目を覚まして少し顔を動かすと、ずっと見たかった部屋の中にいる。

ベッドの横にいた黒い犬が覗き込むように朱音を見ていて、朱音はその漆黒の瞳に何故か見覚えがある気がした。

その真っ黒な大型犬は向きを変えベッドを離れてやはりドアをすり抜けていくのをみて、朱音はこれは夢だと確信した。

きっとこれから冬真とアレクが入ってくる。

冬真がドアの外から声をかけてきたけど、朱音は夢なのだからと声を出さなかった。

このあと私は冬真さんにこの洋館を出て行くように言われる。

やり直せるなら、あの時に出て行きたくないと言ったのなら変わっていたのだろうかと朱音は部屋に入ってくる冬真とアレクをぼんやり見ていた。


「声をかけたのですが返事が無かったので勝手に入ってきてしまいました、すみません」


なるほど、あの時返事をしないとこんな風に変わるのだなと朱音はじっと冬真を見ていて、冬真は無言のまま自分を見ている朱音に戸惑っていた。


「喉が痛みますか?知り合いの病院で診てもらえるように話してあります。

昨夜から食事も取っていないですし、アレクがスムージーを作ったそうなのでそれを飲んで少しまた寝てから出かけましょう」


冬真が心配そうに自分を覗き込み、既にあの日の冬真の言葉とかなり変わっていることに朱音は首をかしげた。


「首を痛めましたか?枕は以前使っていたのを出してきたのですが」


「・・・・・・あの」


「はい」


「これ、夢ですよね?」


ベッドで寝たまま不安そうな顔をしている朱音に、冬真は何故か笑みを浮かべて椅子を一つ持ってくると朱音の身体を起こす。