*********
朱音は目を覚まして天井、そして周囲を見る。
ここに引っ越してきてそろそろ一ヶ月が経ちそうな土曜日、朱音は天井を見ながらため息をついた。
未だにあの洋館で住んでいた景色が目を開けると見えるのではと思うが、一度もそんなことは無い。
住民票は未だにあの洋館の住所のまま。
郵便物の転送は既にしてあるが、役所に行く時間が無いしと言い訳しながらずるずる住民票の手続きは伸ばしていた。
少しだけでも繋がりを残したいと思っていたのが本音だが、会社への説明を考えるとさすがに限界かもしれない。
確か今日は役所の窓口がやっているはずだからあと少しだけ寝てから行こうと、朱音は再度毛布を被った。
カーンカーンカーンという高い音が夢の中で響く。
遠ざかるような、近づくようなその音がサイレンだと思いながら朱音は目を覚ました。
身体を起こすとベージュ色のカーテンが明るいオレンジ色に染まっていて、気が付けば夕方になっていたのかとちょっとホッとしている気持ちがありつつ役所は今度行こうとベッドから降りてカーテンを開ける。
だが朱音の視界に飛び込んできたのは夕陽ではなく、立ち上る炎と黒い煙だった。
健人がリビングでビールを飲んでいると、リビングにある電話が鳴る。
「あぁいい、俺が出る」
キッチンにいるアレクが来ようとしたのを見て健人がそう言って電話に出ると、その相手は朱音のマンションのオーナーからだった。
「おい!!」
仕事部屋をノックせず蹴破るような音で入ってきた健人に、冬真はパソコンから顔を上げると呆れたような顔をした。
「何ですか」
「朱音のマンションが火事だ!」
その言葉に冬真の表情が変わる。
「朱音さんは」
「オーナーが部屋を確認しようにも消防隊に入ることを止められて、今消防隊からの捜索状況の報告を待っているそうだ。
朱音の携帯にかけてるが繋がらねぇ」
スマートフォンを持ったまま健人が固い声で言う。
「確か昨日の夜、あいつ飲み会に行ったはずだ。
もしも酔っていてまだ眠ったままだったら」
「アレク」
既に健人の後ろにいたアレクに冬真は命じる。
「元の姿で朱音さんの様子を見てきて下さい」
「おい、車の用意をしろ」
「かしこまりました」
アレクは身を翻し、冬真はアレクが自分の命令では無く健人の言葉に従ったことに思わず席を立つ。
「アレク!」
「お前が行け」
再度呼んでも使い魔は戻らず、困惑したような顔の冬真に健人が言う。
「心配なら健人が行けば良いでしょう?今も連絡取り合っているんですし」
「拗ねてる場合か。
俺はオーナーの連絡を待つからここで待機する。
いざとなれば魔法でも何でも使ってお前が朱音を助け出せ」
冬真はその言葉を聞いて口を真っ直ぐに結ぶと、健人の目を見て頷き急いで部屋を出た。
健人は静かなこの洋館の前を黒い車が走っていくのを見送り、リビングへ戻った。



