横浜山手の宝石魔術師



「ほら、その貴重品袋置いて飯食いに行くぞ」


朱音の抱えている大きなリュックには、自分を支えてくれたKEITOのイラスト集、誕生日にもらった絵やそして冬真がくれたルビーのネックレスが入っている。

洋館を出て行く日、朝目覚めるといつもラブラドライトのネックレスの入っていたケースの中に小さな袋が二つあり、一つにはラピスラズリの欠片、もう一つはネックレスの台とチェーン、そして少しだけラブラドライトの欠片が入っていた。

朱音はそれも大切にリュックに入れて、それだけは業者にも持つと言ってくれた健人にも断って自分で持ってきたのだ。


健人に誘われた小さなイタリア料理の店は既に予約をしていたようで個室に二人は入った。


「ここは誰かさんが全て持つようだから高いの頼め。俺はそうする」


健人は戸惑う朱音に気にせず高いワインと前菜の盛り合わせなど色々頼み、先に飲み物が届いて朱音のグラスにジンジャーエールがつがれ、スタッフが個室のドアを閉めると健人はワイングラスを持つ。


「朱音の再出発を祝って乾杯」


健人がそう言うと朱音は崩れそうな表情を堪え、健人はワインを口にした。


「全く何考えてるんだか」


健人が前菜の野菜と魚介がふんだんに入っているマリネを摘まみながらそういうと、朱音がジュースを飲みながら俯いていた顔を上げる。


「すぐに出ていけと言って早朝から自分はいない癖に、立派なマンションに必要なものも揃えておいて晩飯先まで全部予約してあんだから。

いちいちメールで俺に進行状況の確認や命令しないで自分でやれっていうんだよ」


「そうなんですか?」


そんな事が起きているとは思わず驚いた朱音に健人がひらひらスマートフォンを振った。


「思ったよりすぐに決断したな。

そんなにあいつの側にいるのは辛かったか?」


『朱音さんが明日出て行きます』


あの事件の翌日、健人の部屋にやってきて冬真は告げた。

あの状況からいつか言うだろうと思っていたが、まさかそんなに早く言い出すとは健人も思わなかった。

冬真の表情からは何もわからないが、健人は、そうか、とだけ答えると、冬真は部屋を出て行ってその後姿を見ていない。

朱音に不自由させないよう、冬真が色々動いたのはわかる。

それが冬真の懺悔なのか、最後の保護者としての仕事なのかはわからないが。


「辛い・・・・・・いえ、思ったより辛くは無いです」


朱音は考えながら、でも最後は言い切った。


「まだ実感が湧かないからかもしれないんですけど」


そう言って左手の包帯に視線を落とす。


「でも、トミーさんも冬真さんも生きてるから。

生きているならいつかまた、会えるかもしれないですし」


手の痛みはほとんどない。

だから手の包帯を見てもあの日のことは夢だったのではと思えてくる。

そんな朱音を見て、健人はしばらく口を閉じていたが笑みを作った。