横浜山手の宝石魔術師



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翌日、朝から引っ越し業者がきて荷物を梱包していた。

前のアパートより広いこの部屋に合わせ物も増えて、前のアパートと同じ部屋の大きさならかなり捨てなくてはいけないけれど、ここでは何も捨てるものを選ぶことが出来ず、とりあえず全て荷造りしてもらうことになった。

考えてみたら色々家電や生活雑貨も必要だ。

でもここで家賃など支払わなかった分貯蓄に回せたので、かなり楽に揃えられるだろう。

既に物が片付いてしまった広い部屋を見回し、朱音は冷静にそんな事を考えていた。


「朱音」


後ろから声がして振り向くと、健人が部屋の入り口にもたれかかっていた。


「俺が今日一日付き合う。買い物もあるだろうし。

晩飯も抜かないように見張る」


朱音はそんな健人に苦笑いを浮かべる。


「見送りもしないで逃げる男なんて忘れてしまえ」


朱音の側に来て真剣な顔でそう言った健人に、朱音の表情が泣きそうになって俯く。


「そうは言っても簡単には無理だよなぁ」


俯いた朱音の頭を大きな手が撫でれば、大きく包み込む優しさが手から伝わるようで朱音は唇を噛みしめ涙を堪えた。



引っ越した先は最寄り駅から徒歩約十分、十二階建ての立派なマンションで朱音は部屋に入って驚く。

既に家電製品もカーテンもあり、今回は布団を買おうと思っていたのにシンプルなベッドまで置いてあった。

朱音は大きなリュックを抱えたまま周りを見回す。

こんな立派なマンションの広い部屋があの家賃では無理なことを物件を探して回ったからこそわかる。

冬真が多くの気遣いをしているのは、朱音への餞別なのだろうか。


「ふぅん、1LDKの角部屋か。トイレ風呂別でまぁまぁの広さだな。

どうすりゃ既に家電製品とか買って先にセッティングしておけるんだよ。

金か、金にものを言わせたな、あのエセ紳士」


呆れた声を出しながら健人は部屋の隅にある段ボールを横切り、大きな窓にかかるカーテンを開けた。

健人が手招きしてその横に朱音が行けば、窓の外にはみなとみらいの夜景が広がる。

目の前にあるマンションよりこの部屋の方が高いため周囲のマンションが高い割に思ったより景色を邪魔されなかった。

ぼんやりその景色を見ていると、健人がそんな朱音の頭をぺしりと叩く。