横浜山手の宝石魔術師



「ありがとうございます」


そう呼びかけると、ドアの後ろから年老いた女が出てきた。

70にも80歳にも見えそうで顔には深い皺が刻まれた小柄な老婆だが、その目は強い光を宿している。


「まぁ一応最低限の目的は達成できたからね。

あの娘については目をつむってやるさ」


そう言ってやれやれと古びた椅子をひきずって座った。


「しかし監視していた割にあっさり逃げられましたが」


冷たい青い目が年老いた女を鋭く見れば、女はふぅと息を吐く。


「こちらだって気取られないようにするのに大変だったのさ。

中華街の男と今回のは同一だろうね。

正式名称は不明だが薔薇十字団という事を匂わせて少人数で動いている可能性が大きいようだ。

本部と連絡して再度洗い出しを始めるが、あの魔術師はあれだけの怪我をしたんだ、当分地下に潜ってしまうだろうし面倒だよ」


「そちらはお任せします」


「冬真」


魔術武器を床から抜いていた冬真に老婆が声をかける。


「お前さんの見立ては当たってしまいそうかい?」


「出来れば外れて欲しいのですが」


その質問に自嘲なのかわからない笑みを冬真は浮かべる。

意識を失っているトミーの身体を壁にもたれかからせて、その膝にコートをかけている冬真を老婆はただ眺めていたがやがて声をかけた。


「あの娘が何故あんな行動をしたのか、そしてお前の使い魔が何故命令に背いたのか未だ疑問に思っているんだろう?」


「えぇ、特にアレクが僕の命令を無視したことは問題ですね」


そう言うと、少し離れた場所で黒いスーツ姿の使い魔が片膝をつき冬真に向かい頭を下げたままなのを視線の端に捉える。


「いや、無視してはいないさ」


一瞬嫌そうな顔をした青い瞳の青年を見て老婆は目を細めた。


「あの娘もお前の使い魔も根っこは同じさ。

それがわからないなんて若いというか人としてやはり欠けているというのか。

魔術師としても人としても勉強が足りないね」


よっこらせ、と椅子から降りた老婆が最後は笑う。


「さて、後片付けだ。

お前さんは宝石魔術師としてしばらく残業だよ」