横浜山手の宝石魔術師


朱音は腕も足も鈍い痛みが身体に伝わるのに、それよりもあの消えた猫が話していた内容でもたらされた胸に走る痛みの方が遙かに大きい。

冬真が何度か実は酷い男なのだと言ったことを朱音は思い出すが、それがこういう意味だなんて誰が考えるだろうか。

囮として冬真の側に置かれながら、でも自分に注意するよう警告していた意味が朱音にはわからない。

優しく紳士な冬真、冷たい表情の冬真、どちらが本物か、それとも全てなのか。

朱音は起き上がることも出来ず、冬真がスマートフォンで誰かと話しているのを見上げていた。


『冬真!助けてくれ!苦しい!』


悲痛な声に冬真はスマートフォンの通話を終えると光に捕らわれたトミーの方を向く。

そこには足だけに絡んでいた手が膝上まで上がってきて、トミーは必死にあらがっている。


『もう術が発動しています。僕にはどうすることも出来ません』


それだけ言うと再度朱音の側に来てしゃがみ、既に拘束は解けたのに倒れたままの朱音の上身体を起こして床に座らせると手を差し伸べる。


「痛みますか?」


やっと日本語で声をかけられたのに朱音は呆然と冬真を見上げ、冬真はそんな朱音を見て少し目を伏せると立ち上がり、再度トミーの前に来た。

トミーは涙を流しながらただ目の前の冬真を見ている。


『君は娘を裏切ったのか』


娘は幼い頃から冬真に想いを寄せていた。

日本の文化が好き、日本が好きだと言っていたのは、冬真との繋がりを持つための娘の健気な行為。

一族の中でも美しい容姿、ずば抜けた才能、男女問わず冬真に夢中になる者は多く、その中で彼の側にいられる関係を保つために娘は日本のことを尋ね、彼も穏やかに答える二人のその姿は微笑ましかった。

いつか娘の思いが実って大切な一人娘の結婚式に立ち会えたなら、自分が年老いて死ぬときに若くして亡くなった妻に胸を張って天国に会いに行ける。

だが娘は好きな男が関わる国で殺され彼の冷たい表情を見たとき、あぁ娘を愛していたのだ、きっと彼はお前の無念を晴らしてくれると信じていた。

なのに。

なのに目の前の美しい男は何もせず自分を見ている。

この青い瞳のように冷たく感情が無いからこんなにも美しくいられるのだ、なんて恐ろしいことなのかとトミーは唇を噛んだ。