横浜山手の宝石魔術師



『この下書きの上になぞったあと彼女を置けば良いんだね?

さすがにこの歳だとここまで連れてくるだけでも腰が痛くなってしまったから後で手伝っておくれ』


そういうとトミーは人が一人余裕で入るような円の中に進み、しゃがみながら既に羊皮紙の上に書かれた古代文字に沿い筆を血にひたらせゆっくりとなぞりだす。

だが突然円に書かれた下書きが赤く染まりだし、異様な光を走らせ出した。


『冬真!これはまだ書いていていいのか!?』


トミーは驚きながら円から出ようとすると、まるでガラスに阻まれたように足がぶつかり、慌てるように手を出すがやはり上も下も円に沿うように何かに阻まれ円から出られない。


『冬真!』


トミーの声が聞こえないかのように、冬真は周囲をゆっくり見回し、手に隠し持っていた赤い宝石を部屋の隅の上の方に勢いよく投げる。


『ギャァ!』


叫び声と共に赤い火の中から黒い猫が空中から落下し、冬真が素早く小さなナイフを投げつけ猫は避けようとしたが何本かが当たり、猫の右目と左足が切り取られ猫は体勢を崩し床に転がった。

そこに冬真は近づいて無表情のまま血まみれの猫を見下ろす。


『さすがだね、割と上手く隠していたんだけど』


猫から男の声が聞こえ、朱音もトミーもそちらを向く。

不思議なことに猫の声だけは朱音の頭に日本語として聞こえてきた。


『これが降霊術?正しくは死霊術の術式でしょう?

薔薇十字団、その中心だった人物アレイスター・クロウリーが死霊術などより性魔術が得意な事は誰でも知っています。

実際は彼をこのまま殺し悪魔を呼ぶ際の新鮮な生け贄にして、そして悪魔への本当の供物は彼女だったんですよね。

自分の使い魔にする悪魔に処女を餌として呼び出すのは、なんら変わった方法ではありませんし』


『どういう、事だ?』


震える声で光る柱の円の中からトミーが冬真に言うと、


『何度も忠告しましたよね?彼女のことは諦めることだと。

死んだ者が生き返ることは無い。

あなたは私の忠告を無視して、こんな魔術師につけ入れられたんですよ』


『おやおや、それではまるで私だけが悪者のようじゃ無いか』


猫が口から血を流しながら不服そうな声を上げる。