横浜山手の宝石魔術師


冬真が来てくれたもう安心だと思っていた朱音は、感情の無いただの美しい人形が首を自動で動かしているようにすら思え恐怖を覚える。

ここにいるのは自分の知る優しい冬真では無く、これが魔術師としての本当の冬真なのかと朱音は怖いという感情を冬真に対して抱いていることが信じられない。

そして氷のようなその青い瞳に、朱音は釘付けになった。


『既に君が作った魔方陣にある文字をこの生け贄の血でなぞればいいんだろう?

その間君が詠唱しているんだよね、いや、やっと娘が殺された謎が解けるよ!』


未だ嬉しそうに話しているが、冬真はドアを閉め数歩中に入ったままその場から動かず表情も変わらず、何も言葉を発しない。

朱音はトミーがひたすら英語でまくし立てていても冬真という名前以外聞き取れ無いためトミーが何を話しているのか、そもそも自分が何故ここにいるのかもわからない。

もしかして冬真を脅すために誘拐されたのかとも思うのに、自分の冷静な感情がそれは違うと否定する。

そしてあのインカローズの時、男の声が聞こえたことを思い出した。

おそらくそれとこれは繋がっている、そして冬真も。

朱音は顔を下げ、背中に冷や汗が流れていた。

トミーが朱音の側に来るとしゃがんで朱音を見下ろす。


『まさか娘と生年月日が同じで、降霊術の依り代として適性のある娘が娘の亡くなった日の前に見つかるとは。

これも神の導きだろうな。娘の無念さがそうさせたんだ。

降霊術は非常に危険と言うけれど、冬真ほどの魔術師なら君もきっと無事に済むだろう。

娘のためにしばらく我慢しておくれ』


朱音はずっと英語でトミーが自分に語りかけるのに、その愛おしそうな、気遣うような声と表情に、自分が今から起きることが余計に恐ろしいことなのではと顔が強ばる。


『しかしラピスラズリのブローチを目印にして、そしてそれが詠唱中の邪魔にならないよう壊しておいて欲しいなんて連絡をくれたけれど、そこまで娘を思っていてくれたと思うと私は嬉しいよ。

今日のためにこのお嬢さんを逃げないように洋館に住まわせて君を信頼させるようにする、本当に君は根っからの魔術師だね』


はは、と笑いながらトミーは立ち上がって冬真に話しかけるけれど、冬真の表情は全く変わらずただ目の前のトミーを見ているだけ。

トミーはそんな冬真を見て肩をすくめると、テーブルの上に置いた猫の血が入った瓶と筆を持ち、奥の広い場所に置かれた羊の皮の上に書かれた円の中に進む。