横浜山手の宝石魔術師


「お嬢さんは今どこにいるんですか?日本じゃ無いんですか?」


トミーは写真を受け取りその写真を愛おしそうに眺めた後、またケースに入れてポケットにしまった。


「ムカシニホンニイマシタ。イマイギリスネ」


「一緒に旅行できなかったんですか?」


朱音はトミーの寂しげな表情で、自分が軽はずみな発言をしたことに気が付いた。

もしかしたら娘さんは病気でトミーは代わりに来た可能性もあるのにと思って、朱音は慌ててしまう。


「あ、あの、冬真さんには何のご用なんですか?」


とりあえず内容を変えたつもりが、トミーが首をかしげたのを見て日本語が通じなかったのかと急いでスマートフォンを出すと、翻訳アプリで変換した内容をトミーに見せればトミーが笑みを浮かべ何とか通じたようだった。


「トーマとマイドーターのウェディング、ハナス」


その言葉に朱音は言葉を失う。

ハナス、打ち合わせという事だろうか。

冬真さんとトミーのお嬢さんが結婚する、その打ち合わせをしにお嬢さんに代わって父親のトミーが来た、その事実がわかって朱音は頭が真っ白になる。

あの冬真に彼女がいないなんてことはあり得ないのに、そういう陰が見えないことを朱音はどこか安心していた。

だが現実はイギリスに婚約者がいて、だから日本で女性の影は無かったのだ。

クリスマスにイギリスに帰った理由も婚約者と過ごすためだったのだろう。

やはり冬真は自分の保護者みたいなもの、ということが真実だったとわかって朱音は涙が出そうになるのを必死に我慢する。


「パウダールームに行ってきます」


俯いて朱音は立ち上がり、鞄を掴むと足早に席を立った。

唯一フロアにいたスタッフにトイレの場所を案内されて、朱音とスタッフが喫茶室から消える。

トミーは隣の席に置いておいた古い鞄を開けて厳重に包んでおいた小瓶を取り出し、周囲を再度伺った後、朱音の飲みかけのカップに中の液体を数滴垂らす。

無色、無臭のその液体はあっという間にその琥珀色の液体に溶け、トミーは朱音の座っていた隣の席に置いてある朱音のコートを見れば、薄いベージュのコートの襟には、目印と言われていたラピスラズリのブローチ。

名前は朱音と確認済み。


『娘の誕生石が目印とは、彼はやはり娘を愛していたんだな』


そう呟いて、小瓶をまた鞄にしまった。