一時間ほどあと。

 帰宅した果歩がリビングに麦茶を持っていくと、この場に似つかわしくない様子で座布団の上に正座をしていた翔は、申し訳なさそうに言った。

「悪い、家まで押しかけるなんて形になって……」

 あれから、話をしたいという内容は受け入れたものの、問題なのは、どこで話をするかということだった。

 普通なら、そのあたりのカフェかどこかで、となるだろうが、今日は航という子ども連れであるし、しかも外のお店に入る想定をしていなかったうえに、これから帰るつもりだったところだ。

 急にどこかのお店へ入って、しかも短くはないだろう話をするのは難しい。

 だから家へ招いたのだ。

 急に相手の家に来させるというのは気が引けたけれど、それが一番助かることだった。

 それで翔が「俺の車で良かったら」と言うのに甘えて、送ってもらって帰ってきた。

「ううん、外だと航がいるから……、だから私こそごめんなさい」

 果歩はテーブルに麦茶のグラスを並べて、眉を下げて、ちょっと無理をしたけれど笑みになった。

「家族はまだもう少し帰らないと思うから」

 安心してほしくて、また言っておいたほうがお互い気にならないかと思って、予定も口に出す。

 今日は平日だから父は仕事、母は用事で外出していた。

 二人とも夕ご飯には帰るだろうが、まだ夕方前なのだから、少しは時間があるはずだ。