「ひゃ……!?」

 ガッ、と手元から衝撃が伝わってきて、果歩はつんのめって転びそうになるのをなんとか踏みとどまったものの、つい声を上げてしまった。

 ハワイに着いて、早くもうきうきしながら空港内を歩いていた果歩。

 どこも陽気な雰囲気で、興味を惹くお店ばかり入っている。

 それらをきょろきょろ見回しながら歩いていたのが悪かったのか、引いていたキャリーケースがなにかに引っかかってしまったようだ。

 ああ、もう。

 よそ見をしてるから……ひとにぶつからなくて良かったけど。

 自分に呆れつつ、少し反省しつつ、果歩はキャリーケースを戻そうとしたのだけど。

「……えっ、ちょっ……、嘘でしょ!?」

 ぐいぐい。

 ぐいぐい。

 果歩が引っ張っても、ワインレッドのキャリーケースは微動だにしない。

 よっぽど深くはまり込んでしまったのか、それとも溝がちょうど良すぎるサイズだったのか……。

 どうしよう……ああ、そうだ。どんなふうにはまってるのか見たほうがいいかな。

 そう考えて、果歩はキャリーケースのかたわらにしゃがみこんだ。溝を覗き込む。

 しかし暗くてよく見えない。

 もっとよく覗こうとしたときのことだった。

「May I help you?」

 流れるような英語が、やわらかくて低い低音の声で聞こえた。