がらがらと鳴るキャリーケースのタイヤの音が妙に空虚に聞こえる、と思いながら、果歩は家路をとぼとぼ辿っていた。

 最寄り駅からは歩いて十分近く。

 遠くはないが、駅チカではない。

 下のほうに軽い擦れた傷のある、ワインレッドのキャリーケースは重たかった。

 四日分の荷物が入っているのと、お土産もたくさん追加して入れたから。

 楽しかった想い出の重さのはずだけど、今の果歩には空虚だった。

 ぼんやりとした心持ちで、果歩は住んでいるマンションに辿り着く。

 カードキーを当てて、オートロックを解除した。

 中へ入って、エレベーターに乗る。

 エレベーターは小さいので、キャリーケースを引っ張り込むには少し苦労した。

 がたん、がたん、と揺れること数秒。

 果歩の部屋がある階まで上がって、エレベーターを降りる。

 果歩の部屋はエレベーターからすぐの場所だ。

 手に握っていたカードキーを再び当てて、ピッという小さな音でロックは解除された。

「ただいま……」

 果歩は小さな声で呟いた。

 答えてくれるひとはいない。

 でもここでは別におかしなことではない、独り暮らしなのだから。

 なのに、返事がない。

 そのことで、昨日の朝……向こうでの時間だが……のショックな気持ちを思い出してしまうような気がして、飛行機に乗っているときは少しおさまっていた気持ちが、また復活してきた。

 熱くなった喉は、今は隠す必要がない。

 ぽろ、ぽろっと頬に零れてくるのを拭いもせず、果歩はしばらく玄関に立ち尽くしていた。