数歩先を先導するように歩く翔に、果歩は内心、あわあわしながらついていった。

 デートのように誘われたのもであるし、服を受け取ってくれなんて言われたのには、もっと動揺してしまう。

「あ、あの、どこへ……?」

 翔が迷わず歩いていく先は、果歩が入ったこともないようなエリアだった。

 危険だという意味ではない。

 高級店が並んでいるという意味で、用事がない場所だったのだ。

 しかも慌ててしまう理由はもうひとつある。

 翔に右手を握られていたからだ。

 あのレストランを出たあと、翔は、すっと果歩に手を差し出してきた。

 きょとんとした果歩に、翔がなんでもないように言ったのだ。

「デートなんだ。手は繋ぐものじゃないか?」

 果歩の頬が熱くなってしまうような言葉。

 デートではないと思った果歩だったが、この状況であるし、翔はとても素敵なひとだときている。

 それなら、今いっとき、疑似デートのようにするのくらい、いいだろう。

 そう思った果歩はそっと手を差し出して、翔の手を取った。

 しっかり厚みのある手はあたたかくて、節がしっかりしていて、男のひとの手なのだとすぐに伝わってきた。

 その手に優しく握られて、歩き出して……やってきたのは高級店のエリアだというわけだ。

 そして翔は一軒のブティック前で足を止めた。

「ここだ。どうかな?」

 大きなショーウインドウがあるその店も、見るからに高級店。

 ショーウインドウの中にはドレスに近いような、華やかで、だが上品な服が二着ほど飾ってある。