「乾杯……といきたいところだけど、数時間後に飛行機なら、飲まないほうがいいかな?」

 メニューを開きながら翔が言うのを、果歩はちょっと惜しい気持ちになりつつ頷いた。

「うん。乗り物酔いするといけないよね」

 果歩が惜しく思った気持ちすらわかった、という表情で、翔はフォローするように言ってくれた。

「そうだな。体調は万全のほうがいいから」

 確かに、飛行機で具合が悪くなってしまったら困る。

 数時間乗るのだし、添乗員さんに迷惑もかけてしまう。

 果歩がそう思っているうちに、翔が明るい声に戻って言った。メニューの一部を指差す。

「じゃ、ソフトドリンクにするか。ここ、パイナップルジュースが美味いんだよ。店で絞ってるんだ」

 メニューはもちろん全部英語で書いてあったけれど、写真がたくさん載っていて、わかりやすいタイプだった。

 黄色いジュースが大きなグラスになみなみ入っている写真を指差す翔。

 その指先になんとなく視線を吸い寄せられてしまい、数秒後にハッとして、慌てて逸らした。

 どうも意識してしまっている、と思う。

 イレギュラーなこの状況にも、思わぬ再会を果たした翔に対しても。

「うん、美味しそう! じゃあそれにしてみようかな」

 慌てて言うけれど、翔はなにも気にした様子なく、にこっと笑った。

「ああ、じゃ、俺も同じのにしよう。ランチはセットがあるんだ。こっちのページに……」

 二人でひとつのメニューを覗き込んで、翔のおすすめというものに決める。

 近寄ってきたスタッフにオーダーして、少し待つ間、窓の外の明るい海を見ながら話をした。