「今日はありがとう」

 帰り道で翔が改まって言った。

 果歩は「私こそ」と笑い返す。

 お店を出たあと、お酒を飲んだし、酔い覚ましも兼ねて少し歩いて行こうということになった。

 ある程度のところでタクシーを捕まえて、実家へ向かうつもりだ。

 もう夜九時を過ぎたから航は眠っているだろうが、一緒に家へ帰って、またパパとママとしての時間を再開するのだ。

 お店は少し高台にあったから、帰り道では街の灯かりがよく見えた。

 その灯かりと街灯でほんのりと薄明るい道を歩き出してすぐに、翔がすぐに果歩に視線を向けてきた。

 すぐに果歩も意図を察して、ふっと微笑む。

 それで翔の手が、果歩の手を優しく握ってきた。

 確かな力で、でも痛くない優しい握り方で、果歩の小さい手はすっぽり包まれてしまう。

 まだ二月なのだから外は冷える。

 でもお酒のために体はぽかぽかしていたし、それに手のあたたかさがよくわかった。

「果歩の手、あったかいな」

 翔も同じように感じたようで、そんなふうに言う。

 果歩の胸こそ、ほわっとあたたかくなってしまうような言い方と言葉だった。

「翔さんこそ」

 よってそう返す。

 果歩のほうを見てきた翔は「そうか」と幸せそうに微笑んだ。