「夫婦の時間を外で過ごすのは久しぶりだな」

 日本酒の猪口を、くっと干してから翔が感慨深げに言った。

 果歩も久しぶりに飲む甘めのカクテルを楽しみながら、軽く頷く。

「そうだね。家もいいけど、こういうのも嬉しいよ」

 今夜はだいぶ久しぶりに二人で外食だ。

 今日は懐石料理。

 翔が「独身時代に時々来ていたところなんだ」と予約してくれた。

 つまりは高級店で、部屋も個室で、美しい夜の庭が見えるロマンティックな一室に通されたときは、内心びっくりしてしまったものだ。

 今日一日、ドレスを選ぶために航を実家に預けてきた。

 夕方には帰るつもりだったが、航を数時間預かってくれないかと相談したとき、母から提案されたのだ。

「せっかくだから、たまには翔さんとゆっくり過ごしてきたら?」と。

 確かにここしばらく、二人でゆっくり過ごす……デートする機会はなかった。

 だから提案してもらえばすぐに気持ちは動いたけれど、夜まで預かってもらうのは申し訳ない、と果歩は思ってしまった。

 でも翔が言ったのだ。

「お義母さんがそう言ってくれるなら、甘えないか?」

 ただ、その理由に、果歩はちょっと恥ずかしくなってしまったけれど。

 夜、リビングのソファで話していたときだったが、翔は果歩に寄り添うように座り直し、腰を抱いて引き寄せ、腕に抱いてそっと囁いてきたのだ。

「たまには果歩と、恋人同士の時間も過ごしたい」

 そう言われれば、果歩の気持ちも同じになった。