翔から『会って話がしたい』と連絡があったのは、一週間ほどあとのことだった。

 果歩はもちろん、すぐに『いいよ』と返事をして、スマホのやり取りで計画を立てる。

 翔の仕事の都合で、訪ねてくるのは九月の終わり頃になった。

 もうだいぶ秋の気配も濃くなっている。

 家の垣根に植えているキンモクセイが、甘い香りを漂わせはじめるような頃。

「お邪魔します」

 翔が大柄な体をかがめるようにして、玄関をくぐったとき、玄関先で迎えたのは果歩の母だった。

 翔の車を停めるのを手伝って、翔のあとから入った果歩は、母がちょっと緊張した笑顔でいるのを見た。

「いらっしゃい」

 むしろ母のほうが緊張していたかもしれないくらいだ。

 翔も感じ取ったらしく、あちらも少し努力したという表情に、笑みを浮かべた。

「急に押しかけて申し訳ございません。私、航空機操縦士の逢見と申します」

 名刺を取り出し、母に差し出す。

 受け取った母は目を丸くした。

 名刺には職業や連絡先のほかには、会社名も書いてあるから、それを見て驚いたのだろう。

 日本で一番有名な航空会社だ。

 そこのパイロットだというのだから。

 「操縦士さん……!?」

 驚かれて、翔はここばかりは素直な照れた様子で、頭に手をやった。

 今日は黒のスーツ姿だったが、そんな姿でも、仕草は変わらないのだった。

「ええ、まぁ」