「……そう。パパが……」

 一通り聞いて、母は小さく息を吐きだした。噛み締めるように言う。

 翔が帰っていった十分ほどあとに、果歩の母が帰ってきた。

 普段出さない座布団が出ていたり、洗って拭いてあったお客さん用グラスであったり、そのあたりから、誰か訪ねてきていたようだと気付かれてしまった。

「誰か来ていたの?」と尋ねられたので、果歩は正直に説明した次第。

 果歩はちょっと不安になる。

 なにしろ妊娠と出産の経緯が経緯だ。

 母が翔を良く思わない可能性だって大いにある。

「……ごめんね、勝手に招いて」

 ひとまず、家に勝手に呼んでしまったことについて謝った。

 それについてはすぐ首を振られた。

「いいえ、構わないわよ。航ちゃん連れでお外は難しいでしょうし」

 軽くそう言ってもらえたけれど、そのあと、心配そうに母が果歩に聞いてきた。

「大丈夫?」

 果歩はきょとんとしてしまった。

 大丈夫とは、なにがだろう。

 よくわからなかったので、そのまま聞き返した。

「なにが?」

 果歩が疑問に思ったのは母にとって、意外だったようだ。

 ちょっと目を丸くするのが見えた。

「なにがって……急に、翔さん、でしたっけ。予想外の再会だったんでしょう。いきなり会って、話なんてして……」

 むしろ母のほうが動揺しているようだった。

 でもそれはそうかもしれない。果歩のことをとても大切にしてくれる母だから。

 果歩はそれを察して、納得した。