「……じゃあ、少し時間をもらうけど、必ず連絡する」

 話をしていたのは、トータル三十分ほどだっただろう。

 でもとても長くて不思議な時間に感じた、と思いながら、果歩は帰ろうとする翔を玄関まで見送っていた。

 翔は玄関先で靴を履き、ドアの前で、律儀に会釈をした。

 そんなふうに言うので、だいぶ落ち着いてきていた果歩は、今度はあまり無理をしたものではない笑顔を浮かべられた。

「わかった。待ってるね」

 それでこの日はおしまいになった。

 翔はそのまま出ていき、果歩の家の駐車場に停めていた車で帰っていった。

 玄関のドアを開けたところから果歩はそれを見送り、やがて見えなくなったので中へ戻った。玄関もしっかり鍵をかける。

「ままぁ……?」

 リビングに向かうと、ちょうど航が身じろぎして、果歩を探していたらしき顔をしていた。

 果歩は今度、素の笑みになって、ベビーベッドに近付いた。

「起きちゃった? もう少しねんねする?」

 腕を伸ばす。

 航が小さくてふくふくした手を伸ばして、果歩の指を、きゅっと握ってきた。

「んー……だっこ……」

 そうねだられるので、果歩はくすっと笑った。

 伸ばした腕は今度、航の体をしっかり抱きあげていた。

 腕に抱き、肩に寄りかからせて、抱っこして軽く揺する。小さく子守唄を呟いた。

 航は単に少し目が覚めただけだったのだろう。

 まだまだたくさん眠りたい頃だ。

 すぐに果歩に体を預けて、再びすやすや寝息を立てはじめた。