ある日、男は自分の上司にこう告げられた。
「おまえ、ええかげん、売り上げあげんとやばいぞ。いまのままならお荷物だからな」
男はそう言われて初めて自分の立ち位置を理解した。
俺ってこの店で最下位なんじゃね。それってやばいよなぁ。

男の職業は所謂ホストだった。勤め初めて一年はすぎる。ベテランではないが新人でもない。

男は自分の容姿に自信を持っていた。俺ならこの世界でトップになれるでしょ。

そう簡単に考えていたが現実は厳しいようだ。

そんな所に滅多にこない一見の客が店内に現れる。

小綺麗な格好。スーツでパンツ姿。いかにも仕事ができそうな雰囲気をみにまとう女性だった。

「店長、俺が着いていいですか?」

店長は少し苦い顔をする。こいつに任せて大丈夫かぁ?しかしなぁ。さっき売り上げあげろって言ったしなぁ。

「わかった。お前が行ってこい。さっきも言ったが後がないことだけは頭にいれとけよ」

男は店長に軽く挨拶すると、女性の座る席に向かい隣に腰をおろす。

はじめに軽く自己紹介して男は女性の自己紹介を待った。

女性は近くの雑居ビルにある証券会社で事務仕事をしているらしかった。

男は女性の指をみた。
「綺麗な指ですね。俺なんかゴツゴツしてるんですよね」

男はそっと女性の手に自分の手を重ねる。ほらといわんばかりに。