翌朝の日曜日。タロウと住んでいる部屋には到底帰りづらく、いっそ仮病を使って明日は会社を休んでしまえと悪魔が囁く。

答えを迫ったのはわたしだ、自分が逃げるわけにはいかない。タロウに負い目を感じさせちゃいけない。別れを切り出されたらすぐに不動産屋に駆け込んで、引っ越し先を決めよう。仕事を辞めてこっちに戻るかはそれから。

朝ご飯を食べている最中もマー君の視線がうっとうしい。何か訊きたげでしょうがないけれど、お母さんの顔色を窺い引っ込めてるような。水上組の若頭も形無しというか、可愛い人だなぁとは思う。

「ちー、帰りはオレが車で送ってやるから、ゆっくりしてけよ?あーアレだ、映画でも行くか?買い物でもいーぞ?」

「マー君と?」

「ん、オレと」

どこの世界に27歳にもなって、父親とデートよろしく映画に行く娘がいるんだろう。しかも父親がノリノリとか。却下。・・・即断しかけて思い直す。

マー君なりの気遣いなのだ。本当は気落ちしているかもしれない娘が心配でしかたないのだ。かなり粘着質だけれど愛情は本物だ。血の繋がっているはるかが嫉妬するくらいに。

「・・・行ってもいい、かな」

わざと溜息混じりに素っ気なく答えた。
マー君の頭に、ペタンと寝かせた犬耳の幻が見えた。